2025年12月5日(金)

World Energy Watch

2025年9月2日

なぜ世界中で撤退が続いたのか

 23年5月に広島で開催された主要7カ国首脳会議(G7サミット)の声明は、脱ロシア産化石燃料からの脱却と、温暖化対策を念頭に洋上風力事業の大きな拡大に触れた。

 当時のG7国の累積発電設備量2300万キロワット(kW)に対し、30年までに1億5000万kWを増設するという野心的な目標だった。

 この脱ロシアも狙った目標の実現は、皮肉にもロシアが始めたウクライナでの戦争により23年後半には実現が危ぶまれることになる。

 脱ロシアのため、欧米日などはロシア産化石燃料の購入量削減を続けたので、世界の化石燃料価格は大きく上昇し、図-1の通り世界中がインフレになった(安くなったロシア産化石燃料を買い続けた中国は、国内需要の落ち込みもあり、インフレを経験しなかったが)。このインフレを抑制するため、欧州中央銀行と米連邦準備制度理事会(FRB)は金利を引き上げたが、日本銀行は24年まで金利を引き上げなかった。

 インフレは資機材費の価格を上昇させ、金利上昇は着手から完工まで7年から11年掛かると言われ借入金比率が高い洋上風力事業に影響を与える。火力、原子力、太陽光、バイオマスと多様な発電設備の中で、なぜ洋上風力事業だけ撤退が相次いだのかと言えば、洋上風力設備は、発電設備の中で発電量当たりの資材、主にセメント、鉄鋼、さらに重要金属と言われる銅、レアアースなどの使用量がもっとも多く、インフレの影響をもっとも大きく受けたからだ。

 欧州での設備費の上昇率は4割との報道もあったが、もっと高かったのかもしれない。23年の入札で応札がゼロだった英国は、24年の入札では電力の売値の上限価格を66%引き上げている。

 洋上風力事業では、設備投資額と発電コストは長い間下落を続けていた。習熟曲線、規模の経済と設備の大型化がコスト引き下げの原動力だった。たとえば、設備の規模が2倍になると設備の費用は12%下落する実績が得られていたとされる。

 事業者は、設備費の下落が継続するとみて、投資計画を立てたはずだ。着手してから工事着工まで数年は掛かる。その間に投資額も発電コストも下がるはずだ。

 しかし、ロシアが引き起こしたインフレは、事業者の目論見を完全に崩した。設備費は下がるどころか、大きく上昇した。事業継続は困難になった(そして誰もいなくなる 死屍累々の欧米の洋上風力事業者)。


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