2025年12月5日(金)

World Energy Watch

2025年9月4日

米国のエネルギー安全保障を支える

 米国がカナダから石油・天然ガスを調達する最大の利点は、輸送時の供給途絶リスクが低いことにある。中東地域からの輸入ではホルムズ海峡といった、航行上の懸念が大きい海上交通の要衝(チョークポイント)を通過する必要がある。同海域では19年と21年に石油タンカーが攻撃を受け、24年6月にはイスラエル・イラン間の軍事衝突を背景に封鎖リスクが一時的に高まった。このため、ホルムズ海峡経由の輸入ルートには不安要素が残っている。

 一方、カナダは米国と隣接することから、中東地域と比べ、輸送日数が短く、米国にエネルギーを安定供給することが可能である。両国間には、複数の石油またはガスパイプラインが敷設済みである。特に天然ガス輸入の場合、LNGに転換するコストが生じず、相対的に安価なガスを米国に提供することができる。

 今後、米国が産油量をさらに拡大させたとしても、カナダ産原油の輸入を継続していくと予想される。まず、シェール産業が集中する米国南部(テキサス州やルイジアナ州)から、東海岸や西海岸の製油所・発電所へシェール資源を輸送するには、地理的・制度的な障壁が存在する。輸送先との距離が長く、ロッキー山脈などの地形的制約もある上、パイプラインの新設は環境審査の厳格化を理由に容易ではない。また、海上や陸上からの大量輸送にも限界がある。

 こうした中、24年5月にカナダのアルバータ州とバンクーバーを結ぶトランス・マウンテン・パイプラインが拡張を終え、本格稼働した。これにより、カナダはアルバータ州の石油生産地域から西部ブリティッシュコロンビア州の太平洋岸へ原油を輸送し、タンカーを通じて米国西海岸に輸出することが容易になった。

 次に、米国のシェールオイルが「軽質油」と呼ばれる低密度かつ高品質の原油である点も、カナダ産原油の輸入継続に関係している。米国内の製油所の多くは、カナダや中東、メキシコなどから輸入される「重質油」の処理を前提に設計されており、軽質油の処理能力には限界がある。

 そのため、米国内で十分に精製できない軽質油は、処理能力に余力のある他国への輸出に回される一方で、米国内の製油所で処理可能なカナダ産重質油が依然として不可欠である。


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