2025年12月6日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年9月9日

 何を目指すべきか。米国は欧州と統一戦線を組む、NATOはウクライナに対して軍事支援を供与し続ける、ウクライナと米国は彼我のバーゲニング・ポジションについての現実的な評価に基づき、真剣で準備された交渉を行うことである。そうした交渉を誰が行うことができるかとすれば、自分の選択は、ホワイト・ハウスには向かわない。

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ウォルトの論説に足りないもの

 国際政治理論でリアリズムの立場に立つウォルトがトランプ外交を厳しく批判した論説である。トランプの外交姿勢、ロシア・ウクライナ戦争の根本原因、ウクライナを巡る和平に向けた処方箋と多くの論点が盛り込まれている。同感する点は多いが、全体を通して「では、どうするか」という事では、有効な対応策が示されているとは言い難い。

 トランプの外交姿勢について、「トランプが渇望しているのは、注目を浴びることであり、劇的な画像である」とのウォルトの指摘は、納得する。トランプが、ロシア・ウクライナ戦争やガザ紛争のみならず、インド・パキスタン紛争やイランの核開発にも手を出した。

 「取引の中身は二義的なものでしかない」という指摘についても同感である。力がある者が世界の行方を決めると考えている模様であること、独裁的指導者に対して親近感を持っていることも、不安の材料である。

 NATO拡大方針が紛争の原因というウォルトの指摘は、22年当時によく議論された点であるが、同年以来のロシアのウクライナ全面侵攻に焦点を当てて考えると、ポイントがずれている感があるのは否めない。「ウクライナを NATO に加入させることがロシアにとって生存に関わる脅威」とロシアで捉えられているのは事実であろうが、そのことは、22年以来のロシアによるウクライナ全面侵攻を説明するものではない。

 ウクライナが主権国家としてロシアと並んで存在しているという状況を認めようとしないプーチンの世界観に根本原因があると見るべきではないか。もっとも、ウクライナと NATOとの関係は、和平合意で安全の保証を検討する際には、視野に入れる論点ではある。


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