ウクライナを巡る和平に向けた取り組みについては、「米国は欧州と統一戦線を組む、NATOはウクライナに対して軍事支援を供与し続ける、ウクライナと米国は彼我のバーゲニング・ポジションについての現実的な評価に基づき、真剣でよく準備された交渉を行う」というウォルトの処方箋は、真っ当な主張である。一方、疑問が持たれるのは、真っ当であるとしても、トランプ政権の下で、それがどこまで現実的かとの点である。
ウォルトは、和平のあり方として、失った領土の回復、NATOとEUへの加盟を主張する論者に対して、「どうやってそれを実現するかについて、一貫性を持ち、説得力のある戦略を示すべき」と批判を浴びせたが、ウォルトの前述の処方箋に対しても、同様の批判が当てはまる。
あるべき姿から遠いトランプ外交
ウォルト自身も、自分が提言する処方箋がトランプによって実践されそうにないことは理解している。米国大統領が4年間の任期を持っている以上、その間は、現職の大統領を所与の前提とするしかない。
そうだとすると、双方の利害、力、決意についての無慈悲なまでに現実的な評価に基づいた政策提言を生み出すためには、あるべき姿にどれだけ近づけることができるのかというアプローチを取るしかない。欧州の首脳がトランプ・ゼレンスキー会談に同席すべくワシントンDCに赴いたのも、あるべき姿に近づけるための努力と捉えられる。
そう考えると、ウォルトがこの論説で意図したものは、ウクライナを巡る状況に対し現実的に意味のある処方箋を提示するというよりは、トランプ外交があるべき外交からいかに遠いかを示すことであったと見るべきであろう。

