ナチスの優生学を想起
このCMは、公開早々、大きな批判を浴びた。男性目線からのCMであり女性を性対象化しているという批判に加えて、優生学を想起させ、不適切であるという批判が多かった。
ナチスドイツが、肌が白く、目が青く、髪が金髪であることが優れているとする優生学を信奉したことは有名である。もちろん、そのような価値観が、いかに人間を残酷な行為に走らせるかが第二次世界大戦によって明らかになったこともあり、戦後否定されるべきとの考えが支配的になった。
このCMに対しても、目の色や肌の色など、身体的特徴に優劣をつけ、青い目などそのなかのいくつかを望ましい特徴とする考えを正当化するものだという批判が多かった。ある集団が望ましいと思わない人間の特徴を持つ人に、なるべく子孫を残させないようにすることで、集団の遺伝的質を向上させるという優生学の考えを支持しており、危険なものであるというのである。ナチスが、自分たちが好ましいと考える特定の白人以外は子孫を残すべきでないと考え、好ましくないと考える人種や障がい者などの抹殺を図ったことを想起する者も多かった。
アメリカン・イーグル社は、「『シドニー・スウィーニーは素晴らしいジーンズを持っている』は、ジーンズについてであり常にそうだ。彼女のジーンズ、彼女の物語に関するものだ。我々は、誰もが自信を持って自分らしくアメリカン・イーグル製ジーンズを履くことを、今後も称賛し続ける。すばらしいジーンズは、誰にでも似合うものだ」というメッセージを公開して、批判には当たらないと苦しい防戦にまわった。
トランプとバンスがコメント
ただ、このような人種的価値観は現在の米国でも依然一定の影響力を持っている。そしてトランプ政権の誕生によってその流れに勢いがついているのも事実である。
保守派のコメンテータたちはより積極的だった。Fox NewsやNBCでキャスターとして活躍し、人種的発言を咎められて冠番組を取りやめられた過去のあるメーガン・ケリーは、「シドニー・スウィーニーの広告を巡って左派がパニックに陥り、その結果、美しい白人金髪で青い目の女性が、その優れた遺伝子のおかげで1000倍の注目を浴びることになったこと、それは本当に素晴らしいと思います」と発信した。
ホワイトハウスも即座に反応した。スティーブン・チャン広報部長はXに、キャンセル・カルチャーが暴走しているとして「この歪んだ、愚かな、そして厚顔無恥なリベラル思想が、2024年の選挙でアメリカ人がそのような投票をした大きな理由の一つだ。この馬鹿げた状況にうんざりしているのだ」と投稿し、このCMを批判する人々を非難した。
バンス副大統領は、ポッドキャストでのインタビューの中でこの件に触れ、「民主党への私の政治的アドバイスは、シドニー・スウィーニーが魅力的だと考える人全員をナチスだと主張し続けることだ」と茶化すような発言をした。
