トランプ大統領は、スウィーニーが共和党に登録していたと聞いて彼女を称賛し、件のCMは、「いま最もホットな広告」だと激賞した。ジーンズのCMに、ホワイトハウス広報部長に続いて正副大統領までコメントするのは異例なことであり、関心の高さが表れている。
保守派と多様性の経営環境の変化
スウィーニー本人は、この件に対して直接のコメントはしておらず、彼女の意図はわからない。専門家の中には、現在の社会情勢では、今回のCMのような右寄りのきわどいものが一番耳目を集めると嗅覚鋭く判断し、その狙い通りになっていると指摘する向きもある。多様性がより重んじられていた少し以前なら、彼女はリベラルなフェミニスト的コメントをしていただろうというのである。
そもそも今回のCMがこれほどまでに話題となった理由の一つに、アメリカン・イーグル社がこれまでは多様性や包括性を大切にするブランドとして知られていたからということがある。この会社はこれまでイスラム教徒の女性のためのデニムのヒジャブを市場に投入したこともあり、むしろ今回のCMを批判したような意識の高い人々に支持されてきたのである。しかし、そもそもアメリカン・イーグルという社名は、米国の国鳥かつ力の象徴として米軍の紋章にも使われている白頭鷲からとったものであるから、今回の一件で地金が見えただけと解する向きもある。
確かに今回の騒動によりアメリカン・イーグルの秋の新作は、通常の宣伝活動をした場合に比べて遥かに多くの人々の知るところとなった。しかも大きな不買運動は起きていない。
むしろ、売り上げが大幅に増え、株価が上昇したのは先に書いたとおりである。16年に大手スポーツ用品メーカーのニューバランス社の役員がトランプ支持を明らかにしたとき、大規模な不買運動に広がったのと好対照である。
もちろん米国社会がすべて右寄りに代わってしまったわけではない。トランプ政権に屈して右に大きく舵を切ったために売り上げを落としてしまった企業もある。
多様性を重視し、顧客とのつながりを大切にしてきた小売り大手ターゲットは、業績不振で8月20日、最高経営責任者(CEO)が来年早々辞任すると発表した。20年、同社は、コロナ禍において苦しむ社会に貢献するため黒人従業員や黒人企業の支援などを打ち出し、構造的人種差別という問題に取り組むため「人種的公平性行動と変革(REACH)」委員会を発足させるなどしていた。
それが今年初めの第二次トランプ政権発足以降、政権や保守派から圧力を受けて、多様性促進のための施策を大きく後退させた。するとその方針転換を「変節」と捉えたこれまで同社を支持していた層から大きな非難を浴びると共に、不買運動がおき大きく売り上げを落とす結果となったのである。
