預金が封鎖され、金融機関は連鎖倒産
ハイパーインフレは金利の高騰をもたらす。そして金利の高騰は国債を手放す人を増やし、国債価格の暴落をもたらす。インフレを止め金利の高騰を止めるためには、日本銀行が国債の購入を止め政府の購買力を削減するとともに、民需の抑制も必要になる。
そこで、政府は、終戦直後の前例を踏襲して、身の丈に合わない歳出削減と預金封鎖、増税をすることで、公需と民需の抑制を図る(注4)。さらに、預金封鎖の実効性を高めるために、新紙幣を発行することで新円への切り替えを図り、旧円と新円の交換制限を実施するので、国民は高インフレと相まって必要な生活物資の入手が著しく困難になる。
国債価格の暴落により、それまで運用の多くを国債に依存していた銀行や生命保険会社などの金融機関はバランスシートが大きく毀損し、体力の弱い金融機関から経営破綻することになる。金融機関の連鎖破綻が相次ぐと、日本の金融システム全体が麻痺し、機能不全に陥る。必要なところに必要な資金が回らなくなり、経済の混乱により拍車がかかる。
金融機関の経営危機・経営破綻により、特に地方では、地域向け国内向け生産を主に行う地場企業の連鎖倒産を惹起する。企業の倒産やリストラで職を失った失業者や、銀行の破綻や失業、金利高騰によって変動金利で借りていた住宅ローンが返せなくなる世帯が激増し、街には失業者やホームレスがあふれ、治安の悪化が懸念される。
行政サービスの崩壊
国からの財政拠出に依存している社会保障制度も同時に危機に瀕しているので、失業者やホームレスに十分な生活保護を届けることができない。年金や医療、介護にも十分な資金が行き渡らなくなるので、医療や介護サービスが崩壊し、多くの高齢者が路頭に迷うこととなる。現役世帯は突如貧困や介護難民に陥った老親の面倒もみなければならなくなるものの、その余裕のある現役世帯はごくわずか。
これまでの放漫財政から超緊縮財政に転換せざるを得ない国は、地方交付税交付金や自治体への補助金を削減する。地方は、自治体の貯金にあたる財政調整基金による穴埋めが必要となるが、そもそも財政調整基金に余裕がない自治体は、緊急の特例措置として公務員の解雇や給与カットなどの人件費削減を行わざるを得ない。
その結果、私たちの日常生活に密着するさまざまな行政サービス分野で量も質も低下し、ライフラインの維持すら難しくなる。例えば、警察や消防の機能不全により治安が悪化し、刑務所の維持も難しくなるので、10万円未満相当の窃盗などは実質的に無罪放免となるなど、犯罪が横行する(注5)。
救急車やゴミ収集は料金制となり、金銭的な理由から急病でも救急車が利用できなかったり、不法投棄でゴミが街中に散乱するといった事態が発生する。さらに、バスや地下鉄など公共交通機関が値上がりするか、本数が激減するので、利用しにくくなる。高齢者などの「交通弱者」は買い物や通院も困難になる。
公共工事も減らされるので、道路の建設がストップし道路の開通が大幅に遅れたり、多少の穴があっても補修が行われずに放置されたりして道路が荒れ放題になる。さらに、さまざまな公社や公団への自治体などからの補助が打ち切られ、公営住宅の荒廃が進む。
生活が不便となった自治体からは、より移動力のある現役世代から順に脱出を試みる。現役世代は自治体を、納税、労働力として企業活動、社会活動という面から支えているので、流出は自治体の高齢化を一層高め、存立基盤を脅かす。場合によっては自治体の倒産やゴーストタウン化が避けられない。
政府の歳出削減に伴い、国庫負担金や運営交付金の抑制など未来への投資である教育予算も減らされる。中でも、国公立高校・大学・大学院の学費は急上昇するし、私立学校の多くは国からの補助金が失われ倒産の危機に瀕する。
また、現状でも少ない国からの研究資金の多くは打ち切られ、優秀な研究者の多くは海外の大学・研究機関から、日本にとどまるよりは圧倒的に好条件のオファーを受け、頭脳流出が加速する。
(注4)なお、増税規模については、仮に新規国債発行が不可能となり新規国債発行予定額と同等になるとすれば、2023年度当初予算ベースでは35.6兆円、消費税に換算すると16%に相当する。
(注5)増大する刑務所コストの削減等のため、カリフォルニア州では950ドル以下、ニューヨーク州やイリノイ州では1000ドル以下の窃盗であれば軽罪として扱われる。
