取組みの中心になってしまう物流コスト交渉
それでは、荷主企業や物流企業が「物流2024年問題」をどのように認識し、どのように対応しているかにつき見ていきたい。
日本商工会議所は、地域の中小企業へ毎月調査している「商工会議所早期景気観測」(LOBO= LOCAL BUSINESS OUTLOOK)の一環として、23年から25年の各7月に、「物流2024年問題への対応の動向」を調査した。図1は物流効率化に関する荷主企業と物流企業の取組状況を示したものである。
「取組みを開始」「取組む予定」と回答した荷主企業が半分に満たないのに対し、物流企業の大多数が「取組みを開始」「取組む予定」と回答している。荷主企業と物流企業に大きな較差があることが分かる。
また、25年7月調査においては新たに「取組む必要があるが、取組めていない」という選択肢を設けたところ、同選択肢を選んだ企業が荷主企業・物流企業ともに無視できない割合で存在している。
図2は、全産業のうち「取組みを開始」および「取組む予定」と回答した企業の取組みと行おうとしているものを取りまとめたものである。上の三つについては23年調査と24年・25年調査で内容が微妙に異なるが、実質的に同内容と思われるものをまとめている。
3回の調査を通して大きな割合を示している唯一の選択肢が運賃を中心とする物流コストの交渉である。荷主企業にとっても物流企業にとっても、重要視していることが読み取れる。
その他の選択肢については、後述する23年調査の「納品リードタイムの延長、発注・受注ロットの拡大や運行計画の見直し」、24年および25年調査の「発注頻度の見直し等による配送回数の削減」については無視し難い傾向が見られるものの、年ごとに結果のぶれが見られ、一貫して重視はされてはいない。
物流コスト増加分の価格転嫁が困難な日本
また、23年調査の全対象企業、27年調査で「取組む必要があるが、取組めていない」と回答した企業が感じている課題は、図3の通り「適切な運賃等の物流コストの収受(物流コストの可視化、運送契約の書面化等)」が最も多かった。
「物流2024年問題」への対応として最も多くの企業が取組んでいる、あるいは取組もうとしているのが「運賃を中心とする物流コストの価格転嫁」であるのに、最も難しい課題が「適切な運賃等の物流コストの収受(物流コストの可視化、運送契約の書面化等)」だというのである。物流コストの価格転嫁に取組んでいるはずなのに、実現できず課題として残っているのも物流コストというのが事実なのではなかろうか。
この物流コストの価格転嫁がいかに難しいかを示したのが表2である。
日本商工会議所がLOBO調査の一環として、原材料費等増加分と物流コスト増加分について価格転嫁できているか否かを、24年7月と25年7月に荷主企業と物流企業へ行った調査結果である。原材料費等増加分の価格転嫁に比べて、物流コスト増加分の価格転嫁が荷主企業にとっても物流企業にとってもはるかに困難であることが否定できない。
前回筆者が疑問視したトラック運賃の値上りのトレンドが貨物である「財」(モノ)の値上りトレンドよりもはるかに緩やかであり、運行コストの値上り分を価格転嫁できているのか、を裏付けている。
このことは、物流というインフラが長年コスト削減の対象としてしか見られてこなかったこと、そのマインドセットを変換することは一朝一夕には行かない根深い課題であることを示している。




