大切に保管された資料が
物語る商人道
屋敷内には3棟の蔵が遺されている。うち1棟にはお膳用の食器類の他、大量の寝具が納められていた。正月に店員の家族を招いて祝うためのもので、店員を大事にした初代忠兵衛の姿勢をいまに伝える。別の蔵には創業からの歴史が展示され、中の一枚、東大寺大仏殿で大勢を撮影した記念写真は、店員たちの慰安旅行の折のものだ。蔵の中に眠っているのは、店員を家族のごとく大事にした伊藤忠兵衛の商人道だった。
2020年、伊藤忠は「三方よし」を企業理念とする決定を下したという。時価総額日本一の商社が近江商人を持ち出すことに驚くが、思えば、持ち下りした他国で受け入れられるための〝三方よし〟ほど、世界を股にかけるビジネスに相応しい言葉はないかもしれない。
