2024年4月27日(土)

Wedge REPORT

2014年6月3日

人生の終わりに向けて
働きながらの「終活」

 自らの「生き方」を問い直す。そのような50代の宗教化には、効率優先、競争主義の経済社会の歪みや、合理主義一辺倒の科学技術至上主義の破綻が背景にある。東日本大震災以降、原発事故の衝撃も含めて全般にその傾向が加速している。ただ、彼らは前述したように、仕事に追われており、さっと宗教者に転身したり、どっぷりと宗教活動に浸ったりできない。そこで宗教関係の本を読んだり、あるいは講座を受けたりする向きが多い。

 書店では「とらわれない」「断捨離」などを説く書物を求める姿が見られ、仏教書の売れ行きが好調だ。「読者の多くは、教義を学ぶというより、それを通じて人生のあり方を模索しているようです」と宗教書を多く発行する出版社の社長は解説する。天台宗総本山延暦寺では、坐禅や法話、写経を組み合わせた企業向けのセミナーが評判で、その後に個人で学ぶ人も多いという。高野山大学によると、先の通信課程はここ10年来、仕事をしながらの熱心な受講者が多くなっている。

 教団の側でも、例えば、臨済宗妙心寺派が今後退職する世代向けに「僧侶になりませんか」というリクルート活動をしており、50代の問い合わせも目立ったという。伝統仏教では、日蓮宗が「お寺への訪問が増えている」とし、浄土真宗や真言宗などでその世代を想定した布教や講演会を行う対策も検討している。天理教関係者は「50代になって身辺の様々な理由で信仰が熱心になる信者がいる」と傾向を語る。

 ところで、京都にある「中央仏教学院」では、毎年二百数十人の受講者のうち50代の割合は団塊世代に次ぎ、僧侶資格を目指す専修課程では23%と最多だが、入学の動機は「人生を考え直したい」などと並んで、「近親者の死」が多いという。人は必ず死を迎える。「いのちとは何か」ということを考えることこそ、宗教の最大のテーマだ。「臨床仏教研究所」が40歳以上の男女600人を対象に行った調査では、「信仰する宗教があることは、自分が死に直面した時に心の支えになる」との回答が70%に上った。

 筆者はエンディングに関する講演の機会が多いが、50代が自らに加え、ちょうど寿命を迎えた親のことを念頭に聴講するのが目立つ。「終活」の爆発的ブームを詳しく見ると、エンディングデザイン、つまり葬儀などの扱いでは、直葬や自然葬が流行するように、脱宗教化が顕著だ。しかし「終活」とは実は、「自分らしい生死観」の確立であり、「ずっと先の自分の死を視野に、翻って今の生き方を考え直し、リセットする」という視点が重要だという理解が広がっている。そこにも、生き方の指針としての宗教、仏教が注目される理由がある。

WEDGE6月号特集「団塊世代とは違うこんな生き方 50代こそリセットのススメ」
◎カネありコネあり 50代の起業はローリスク
◎増加する結婚、目立つ婚活 意外にモテる50代
◎生き方を見つめ直すために宗教を「学ぶ」人たち

 

◆WEDGE2014年6月号より









 

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