2025年12月5日(金)

世界の記述

2025年10月8日

EU緊急首脳会議は優柔不断

 こうした事態を受けて開催されたのがEU首脳会議だった。しかしデンマーク上空へのロシア製ドローンの飛来を受けて、ドイツのフリゲート艦派遣をはじめとして、ポーランド・スウェーデン・フランス・フィンランド・オランダ・英国はデンマークへの軍事援助を強化したが、これまでの共通防衛政策をめぐる不一致が改めて確認された。

 首脳会議では、先に述べた「ドローンの壁」をはじめとして、東欧方面の監視強化、航空・宇宙防衛の「盾」の構築を確認したが、これにはEU予算と各国の防衛費増加というハードルを越えなければならない。軍事大国である仏独伊は、フォンデライエン欧州委員会委員長の「2030年に向けた防衛白書」の発表など最近の共通防衛政策強化に向けた掛け声は評価するが、EUそのものの防衛能力がほぼゼロに等しいので、防衛大国への依存過多を危惧する。同委員長はこれら三国に調整国・推進国としての役割を期待する。

 これに対して防衛産業が発達していないバルト諸国などは、自分たちの間でも不一致点が多い。中立的なまとめ役として、欧州委員会も十分に機能していない。

 またドローン防衛システム構築にしても、ドイツのメルツ首相は「それには3~4年以上かかる」、リトアニアのシリナ首相は「1年半のうちに可能」と述べており、速攻性のある議論ではない。それにポーランド・バルト諸国・ルーマニア・ブルガリア・フィンランドは親露的な政権のハンガリーやスロバキアを交えた会合には消極的だ。

 話題となった共通防衛政策の財源問題も依然として膠着状態だ。欧州での凍結されたロシア資産をウクライナ支援のために費消する案は前から出ており、その額は26~27年予測値で1400億ユーロだ。EUは戦費として1800億ユーロをこれまでにウクライナへの軍事支援として送金してきたが、26~27年にはそれができなくなりつつある。EUの財源は乏しいからだ。

 他方でこれまで同様共通防衛政策の財源として「ユーロ共同債」の提案も議論された。これには財源の最大の負担国となると予想されるドイツが慎重だ。

 欧州の本気度、またウクライナ支援の背景にある安全保障観、問われるべきはその点だ。

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