2025年12月5日(金)

田部康喜のTV読本

2025年10月7日

 自由民主党の新総裁に1955年の結党以来初の女性首相となる可能性がある、高市早苗(以下、敬称略)が選出された。

大方の予想に反して、「高市新総裁」はなぜ、生まれたのか(代表撮影/ロイター/アフロ)

 「AI革命」時代の到来と米国一極集中が揺らぐ中で、高市が新首相の座に就くのは必然である。それは、世界秩序が大きく変化を遂げようとしている、荒波が列島に打ち寄せている今、日本の民主主義の針路を決める、これからの新たな「選挙の形」が浮かびあがってくる。

「西洋の敗北」の中でのニッポン

 開票前は「優勢」と新聞やテレビなどが報道していた小泉進次郎が高市に逆転された原因として、唯一の派閥である麻生派を率いる麻生太郎が「決選投票になったら、党員・党友が1位に選んだ候補に入れよ」と指示した。あるいは、小泉が前回総裁選における夫婦別姓制度の導入などに触れない慎重姿勢が響いたといった指摘が多い。

 しかし、「時代精神」の大転換期において、それらは些事(さじ)である。

 「AI革命」が想定を超えて進展する中で、大企業ばかりではなく中小企業の最前線では経営者や働く人々は、この革命についていかなければ将来の命運がかかっていることを強く認識している。

 世界経済を揺さぶっている「トランプ関税」とは何か。世界では英語以外の25ヵ国で翻訳出版されたベストセラー『西洋の敗北』(2024年)の執筆者である、歴史人口学者・家族人類学者のエマニュエル・トッドは、この著作の論考をさらに深めて最新刊の『西洋の敗北と日本の選択』(文春新書)を発刊した。西洋――なかんずく米国の凋落の予言である。

 トッドは、ソ連邦の崩壊を予言したことで知られる。

 米国はウクライナ戦争と中東の戦争にすでに、敗北している。ソ連邦崩壊後のロシアの混乱の印象が深い。ロシアの単位人口当たりのエンジニアの数は、米国の2倍である。ロシアの乳児死亡率は米国を下回る。平均余命は米国が低下傾向にある。

 しかも、ロシアに対する制裁は効果がない。かえって、世界通貨としてのドルなしでもやっていけるのではないか、という認識が広がっている。

 ドル札を刷るだけで世界中から安価な物資を購入し、怠惰に生きている米国に対する不信もまた広がっている。金融資本主義のグローバリズムによって利益を得るうちに、ウクライナに追加の戦闘用弾丸を製造する設備が弱体化している。世界の金融の中心地であるシティを抱える英国も戦艦を製造する能力を失っていて、スペインに発注している。


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