2025年12月5日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年10月22日

 このようなインテリジェンス情報がこれまで以上にウクライナに提供されるとすれば、仮に後述のトマホーク等が供与されなくても、既存のHIMARSやATACMS、さらにウクライナ自前のフラミンゴ巡航ミサイルやドローンなどの運用の効率性が大きく改善するだろう。

 もうひとつの、長距離兵器の供与はどうか。長距離兵器と言っても色々あるが、報道にあるトマホーク・ミサイルの供与となると容易ではないだろう。実際もしトマホークが上記のターゲティングや戦略面のインテリジェンス情報とセットで、かつ十分な数量供与されるのであれば、劇的な形で戦況の全体をウクライナに有利に転換する効果があるだろう。

超えるべき課題

 ただこれには以下のような問題がクリアされる必要があり、少なくとも現時点において容易に進むとは思えない。

 まず、トマホークは海上発射型が中心であるが、ウクライナはそれに適合した艦艇を有しておらず、これらは多少の改良でトマホーク搭載型に変更できるようなものではない。

 陸上発射型はどうか。ウクライナは陸上発射型の供与を一貫して求めてきたと思われるが、現有の地上発射型トマホークはすべて、米国が中距離核戦力(INF)全廃条約から離脱した2019年以降に開発されたもののはずで、先端技術が装備されている一方で数的に豊富ではない上に、すでに欧州には26年以降、ドイツに駐留する多領域任務部隊への配備が合意されている(24年7月の米独共同声明)。

 よって米欧としては、欧州全体の戦力構成の観点から、ドイツに加えてさらにウクライナにトマホークを配備することの軍事的な意味の検討が必要になるだろう。加えて、ウクライナ側の受け入れ態勢や運用能力の問題がある。

 トランプ政権の「関係者」は、以上の困難さを十分に承知の上で、冒頭のトランプ自身による厳しいメッセージに加えてトマホークの配備可能性をフロートさせることで、ロシア側に停戦交渉に向けたプレッシャーをかけることを狙っているのではないか。トランプの考え方を変えることは極めて難しいが、「劇的な姿勢の変化」を遂げた「トランプ大統領の側近」が意図的にこのような動きをしているとすれば、今後の進展に期待をもつこともできるだろう。

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