2025年12月5日(金)

Wedge OPINION

2025年10月23日

 この「新しい階級社会」に自民党がどう対応していくのか。これまでのような、なんでも飲み込む融通無碍さだけでは対応できないことだけははっきりしているだろう。

低所得層にアクセスを
従来の体制を脱却できるか

 自民党の総括報告書は、もう一つの社会の構造的な変化に言及している。

 「近年はSNS投稿やショート動画が世論形成に大きな影響を与えており、とりわけ若年層はテレビや新聞よりもSNS経由の情報に左右されやすい」

 世論形成の主役がテレビ、新聞からSNSに移行しつつあるとの指摘だ。しかし、「デマ、誤情報などのネガティブ情報が急速に拡散した」「拡散力に優れる一方で政策理解を深めるには限界もある」などデメリットが強調され、対応策も参院選の総括であるからか「選挙にどう活用するか」という観点からのものだけだった。

 自民党が衰退期に入った1990年代はテレビの報道番組だけではなく、情報番組などでも政治が取り上げられるようになり、新聞に代わり現実政治に影響を与えるテレポリティクス(テレビ政治)への移行期だった。自民党は93年の下野を経験しつつも、小泉純一郎元首相に代表されるようにこの変化にそれなりに対応した。

 自民党の総括報告書の指摘を敷衍すれば現在はスマートフォンのSNS機能が有権者の政治的な判断を左右し、現実政治に影響を与えるスマホポリティクス(スマホ政治)への移行期といえるだろう。

 今の自民党に期待されるのは、その使い方だ。これまで主に業界団体、後援会を通じて世論を把握してきた自民党が、アプローチできなかったアンダークラスの人々などからSNSを通じて実情や声を吸い上げることができれば、「新たな階級社会」への対応も可能なのではないか。

 もちろん、SNSには偽情報、誤情報の懸念や主張が極端に先鋭化する危険性があるが、自民党の組織や所属議員による人的な情報収集と組み合わせて、修正、補正していけばいい。SNSとリアルを組み合わせたハイブリッドな情報収集体制の構築は、全国津々浦々までネットワークを持つ自民党にこそ求められているのではないか。

 高市氏率いる自民党が支持層を再構築し、安定的に政権を運営できるようになるかは、まず、メディアの変化を踏まえて従来の国民へのアプローチ方法を革新、貧困化を伴う社会構造の激変を認識し、抜本的な対応策を提示することだ。スマホ政治とは、より多くの国民に向き合うことである。

 その上で、党としての政策を真摯に訴えていくということが必要である。それが自民党に可能かどうかは不透明だ。しかし、野党を含め日本の政治全体で対処していかなければならない難題である。

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Wedge 2025年11月号より
未来を拓く「SF思考」 停滞日本を解き放て
未来を拓く「SF思考」 停滞日本を解き放て

SFは、既存の価値観や常識を疑い、多様な未来像を描く「発想の引き出し」だ。かつて日本では、多くのSF作家が時代を席巻した。それはまさに、科学技術の進展や経済成長と密接に結びついていた。翻って、現代の日本には、停滞ムードが漂う中、様々な規制やルールが、屋上屋を架すかのようにますます積み重なっている。だが、それらを守るだけでは新たな未来は拓けない。硬直化した日本社会をほぐすため、今こそ「SF思考」が必要だ。


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