自民党の新総裁に高市早苗氏が就いた。高市氏には、まず自民党の支持基盤の再構築という、かつてない難題が待ち受けている。
「かつてない難題」と表現したのは、自民党の支持基盤の弱体化は一時的な現象ではなく、社会構造の激変と関係していると考えられるからだ。
日本社会が今、直面している構造変化は、言うまでもなく少子高齢化、そして人口減少だが、「中間層の崩壊と低所得化」という深刻な側面を持っている。今年11月には、結党70年を迎える自民党が、幅広い支持基盤を再構築し、国民政党として政権を担い、再び安定的に運営できるようになるかどうかは、日本社会の激変に対応できるか否かにかかっているだろう。
自民党の支持基盤の弱体化は7月の参院選で明らかになった。投開票日に朝日新聞社が「1人区」で実施した出口調査によると、自民党の支持率は30%。前回(2022年)参院選の調査時の49%から激減していた。
次いで立憲民主党が14%、3番手が参政党で13%。前回、自民党支持だった人々の多くが参政党支持に回ったことがうかがわれる。支持層の流出という深刻な事態である。
参院選後に自民党がまとめた総括報告書でも「50代までの若年層・現役世代の支持率が低下し、他党へ流出している傾向が明らかになった」と指摘している。この総括報告書の中には、社会構造の激変について言及した部分がある。
「産業構造の変化や非正規雇用の増大等により、かつての『分厚い中間層』は縮小しており、世帯所得の中央値も1990年代から100万円程度低下している」
「中間層の縮小」と「世帯所得の中央値の低下」の意味するところは低所得者層の増加、つまり「低所得化」である。しかし、総括報告書で、この低所得化にどう対応するかについての言及はない。今回の総裁選の論戦でも具体策は提示されなかった。
55年に保守合同で誕生した自民党は70年代までの高度経済成長期に「55年体制」と呼ばれる自民1党優位体制を築いた。
主要都市が戦火で灰燼に帰し、その日の食事にも困窮した敗戦の惨状から立ち上がる中、平和とともに豊かさを求めた国民の切実な思い。その思いに応えた自民党は「軽武装・経済外交」を基本路線に、時に社会保障などで野党の政策を取り入れながら「成長の果実の分配」に重点を置いた政治を展開した。
55年体制は、80年代の安定成長期に成熟期を迎えたが、冷戦の終焉、バブル経済の崩壊で動揺、「失われた30年」の始まりとされる90年代からは衰退期と連立時代に入る。「成長の果実の分配」以外の政治を提示できなかった。
