2025年11月17日(月)

プーチンのロシア

2025年10月28日

ノボシビルスクの墓地で

 もう一つ、ノボシビルスクという街での体験を記しておく。ノボシビルスクは160万人もの人口を抱えるシベリア最大の都市。同市の外れにあるグシノブロツコエ墓地というところに、エブゲニー・プリゴジン氏の銅像が立っているということだった。

 プリゴジン氏は、民間軍事会社「ワグネル」の創始者で、23年に反乱に失敗した後、プーチン体制によって消されたとみられている。故郷のサンクトペテルブルグに設けられたプリゴジン氏の墓は有名で訪れる人も多いが、ノボシビルスクでもいまだに尊敬を集めているとしたら注目すべき現象なので、自分の目でその様子を確かめてみたかった。

 ところが、墓地で探してみても、プリゴジン氏の銅像はなかなか見付からない。むしろ、墓地の入り口近くにロシア国旗が林立している一画があり、異様な光景なのでそちらの方が目に付いた。

 近付いてみると、その一画に埋葬されているのはすべて特別軍事作戦の戦死者であり、130基ほどの墓が確認できた。さらに、別の場所にも2カ所、ウクライナでの戦死者が集中的に葬られている場所があり、それぞれ190基、40基ほどの墓があった。つごう360基ほどの墓が、それと分かる佇まいで、まとまって築かれていたことになる。

ノボシビルスクのグシノブロツコエ墓地にて

 ロシアは基本的に土葬なので、まだヒトの原形を留めつつこの下に眠っているのかもしれないと思うと、何とも言えない気分に襲われる。ロシアの日常の場面で、特別軍事作戦の人的犠牲が積極的に可視化されることはまずないはずだが、現実に多数発生している以上、この墓地での光景のように、行くところに行けば、覆い隠しようがないということだろう。

 墓地を訪問した本来の目的であるプリゴジン氏の銅像に関しては、見付けるのにとても苦労した。広大な墓地を2時間以上さまよい歩き、もう諦めようかと思った最後の最後に、墓地の一番端のエリアに存在していた。

 プリゴジン氏と、その軍事面での右腕だったドミトリー・ウトキン氏をかたどった銅像が据えられており、あたり一帯にはピラミッド状のワグネル戦闘員の墓石が並んでいた。ざっと数えたところ、350基ほどあっただろうか。

広大な墓地の中で、ワグネルに捧げられた一画だけテイストが違い、どこか新興宗教のよう

 ただ、平日ということもあってか、訪れる人もおらず、その場に立っているのは自分ひとり。まるで時間が止まったかのようであり、異世界に迷い込んだのかと錯覚した。


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