現ナマに訴える契約兵の募集
このように、今日のロシア社会において特別軍事作戦の影は薄く、特にその戦死者の存在は一般市民の目にはなるべく触れないようにされている。
ただし、特別軍事作戦が否応なしに目立ってしまう場面がある。契約兵の募集広告だ。今回、ロシア極東・シベリアの街角で大型の屋外広告看板を何度も目にしたし、商店の入り口やバスの車体にも同様の広告が掲げられていた。兵員をかき集めるのに苦労しているのだなと察せられた。
そして、その訴求方法は、ウクライナでの軍事作戦の大義を訴えるよりも、受け取れる報酬の金額を強調するものが多かった。契約兵の待遇は地域によっても微妙に違うようで、「200万ルーブル」(370万円ほど)としているものもあれば、写真に見るように「570万ルーブル」(1000万円ほど)という太っ腹なものも見かけた(筆者滞在時のレートで換算)。
今回筆者は、現地で配られていたリーフレットも入手したが、そこには軍と契約した場合に受け取れる一時金、車両税の免除、年金の割り増しや受給年齢の引き下げ、遺族向けの公共料金優遇や免税措置など、多種多様な優遇措置がうたわれていた。
特別軍事作戦に従軍するのは、平均的なロシア市民というよりは、報酬目当ての貧困層・辺境住民・少数民族や、恩赦目的の囚人などが多いという現実がある。ロシア国民の多くは彼らに感謝しつつも、「でも軍と契約したのは自己都合でしょ」といった受け止め方が本音ではないだろうか。
大祖国戦争の従軍者が今でも神聖視されているのとは、だいぶ様相が異なる。兵士たちがウクライナでの戦場から運良く生還できたとしても、社会から尊敬を得られず、苦悩するような問題も今後生じるかもしれない。
多くのロシア国民にとって対ウクライナ戦争は、遠い異国で行われている平和維持活動(PKO)のような感じなのではないか。今回筆者が訪れたロシア極東・シベリアは、戦地から遠いため、余計にそのように感じられた。
現実には、ブリヤート共和国をはじめ、極東・シベリアは兵員の有力な供給地になっているのだが、住民の多くは我が身に直接災難が降りかからない限り、ウクライナでの戦争を自分事として捉えにくい。
