2025年12月7日(日)

未来を拓く貧困対策

2025年10月30日

求められたバスケットコートの利用制限

 ようやく開設にこぎつけても、新しい問題が生まれる。実籾パークサイドには、法人が設置したバスケットコートがある。バスケットコートは地域に開放しており、いつでも、誰でも、利用することができる。外壁はなく、一般道路から施設内の道路のアクセスを遮るものもない。取材当日も、高校生らしい近所の子どもたちがバスケットボールを片手に遊んでいる様子を見ることができた。

近隣住民らも利用できる実籾パークサイド内のバスケットコート ©FUKUSHI-GAKUDAN

 また、道路に面した地域交流スペースは、日中は誰でも利用できるように解放されている。すぐ隣にある高校の生徒たちが、何人かで固まっておしゃべりをしていた。時には、夜遅くまで過ごす生徒もいるという。

 行政からはこうした運営方法に問題があると指摘されたという。

 「児童相談所からは『(施設の出入りを管理するために)塀をつくってください』『(利用時間を制限するために)バスケットコートにチェーンをかけるべき』など、施設の開放性について指摘を受けました。高校生が出入りし、子連れの方がバスケットコートに来る。そうした風景を見ることで子どもが傷つくのではないかという心配の声もありました。

 子どもが普通に買い物に行けばショッピングセンターには親子連れがたくさんいますし、学校でも様々な家庭環境の子どもたちと一緒に過ごしています。私たちは管理ではなく、子どもたち自身が自律して場の使い方を考えられるようにしたいと思っています。これは、子どもだけでなく、障害のある人や高齢者であっても同じです」

 施設を開かれたものにしたい。当たり前の生活を送りたい。教科書に書いてあるようなことを実践しようとすると行政から待ったがかかると飯田さんは苦笑いする。

「何かあれば責任を問われる」と縮こまる行政

 飯田さんの話を聞きながら、「なるほどなあ」と思う。施設の運営方針と行政指導がぶつかる場面は、実はそれほど珍しいことではない。

 筆者は、公務員として、児童相談所と児童養護施設の指導をしていた経験がある。だからこそ、県や児童相談所の職員がそうした発言をする背景もよくわかってしまう。

 「地域に開かれた施設を」といった言葉は、一時期、社会福祉施設のキャッチフレーズのように使われていた。しかし、それに冷や水を浴びせる事件が発生した。16年7月に起きた相模原障害者施設殺傷事件である。知的障害者施設「津久井やまゆり園」で起きた事件は、社会福祉施設の運営にも大きな影響を与えた。

 緊急対策として監視カメラ設置の予算が認められ、障害者だけでなく、高齢者や児童も含めてすべての社会福祉施設で不審者対策の徹底が求められた。当時、施設の担当者として県内の児童養護施設をまわる中で、「地域に溶け込もうという私たちの努力は何だったのか」という苦悩の声を聞いた。

 とりわけ、深夜帯は、職員も最小限の人数になってリスクは跳ね上がる。安全管理の視点から部外者の出入りを管理できるような設備を求めた気持ちも理解できなくはない。


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