2025年12月7日(日)

未来を拓く貧困対策

2025年10月30日

 もちろん、だからといって、高い壁をつくり、職員以外は出入りもできない施設の運営が「普通の暮らし」とは言えないだろう。

キーワードは、「地域にひらく」と「最適化」

 福祉楽団は、なぜ苦労を重ねながら複合型のひらかれた施設をつくろうとするのか。飯田さんは、2つのキーワードを繰り返し口にした。

 「地域にひらく」と「最適化」である。

 地域に開かれた施設とはどのようなものなのか。

 「見学に来た方から『児童養護施設の子どもってこんなに自由に出入りできるのですね』と言われます。自分もここに来るまでよく分かってなかったのですが、そういうイメージを持っている人は多いのだなと。でも普通に生活していたら、買い物や学校、友達と遊ぶのは当たり前ですよね。それが施設だとダメなのはなぜでしょうか。

 私たちは、当たり前の生活を目指しています。建物のつくりもそうですし、周辺の環境もそう。塀で囲って敷地内だけで社会をつくるのは違うと思うのです」

地元の高校生らも利用できる交流スペース(WEDGE)

 改めて、普通の暮らしとは何だろうか。

 冒頭の写真に戻ろう。福祉楽団のウェブサイトには、子どもから高齢者まで、年齢も背景も異なる人々が自然に混ざり合い、車いすを利用する方が登場する。地域には、福祉施設の建設に慎重な意見もあったが、対話を重ねるうちに、多くの人が寄附をしてくれ、施設が開設してからは野菜を届けてくれる人もいる。地域の人と職員、利用者がピースサインをして写真におさまっている。

 飯田さんはそれを、「最適化」だという。

 ここでいう最適化とは、管理運営の効率を図るために利用者を年齢や性別、障害のあるなしで区切って施設をつくるという意味での最適化ではない。

 「『社会のシステム』という表現が適切かはわかりませんが、人の生き方に対して、効率的に支援していくためのやり方という意味での最適化ですよね。今の福祉制度は必ずしもそうなっていないので、ぶつかることもあります。

 だからこそ、失敗や事例を積み重ねて、それが立法事実となって法律が変わっていくことを期待したいです。立法事実が先にあるべきですし、私たちは、それを積み重ねていくしかない」


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