住まいと施設を一体的に整備するデンマークの取り組み
実籾パークサイドの取材時に念頭にあったのは、デンマークの「Generationernes Hus(世代の家)」である。この施設は「あらゆる人々が一つ屋根の下に集まる、全く新しい社会実験」(Giornale dell’Architettura)と評される。
Generationernes Hus(世代の家)は、デンマーク・オーフス市の港湾再開発エリアに2020年に開設された国内初の多世代共生型複合施設である。子ども、若者、成人、高齢者が同じ屋根の下で暮らす現代的な取り組みであり、コミュニティと包括性を重視している。
3万400平方メートルのエリアに高齢者住宅100戸、介護ユニット100戸、ファミリー住宅40戸、青年住宅40戸、障害者住宅24戸を備え、さらに約150人規模の保育施設を併設している。屋上庭園やカフェ、共用テラスなどを設け、世代間交流を日常的に促す空間設計が特徴である。
子ども、若者、家族、高齢者、障害者が同じ建物で暮らすプロジェクトは、オーフス市が中心となって進められた。行政主体、民間主体という違いはあるにしろ(そして、それは決定的な違いでもあるのだけれど)、分断と孤立が進む社会のなかで希望となりうるものではないか。
腹を括って取り組むことができるだろうか
実籾パークサイドの中にある、児童養護施設や一時保護所など、子どもを包括的に支援する拠点「実籾パークサイドハウス」では、運営理念を次のように掲げている。
可能性の基盤は生活です。
持てる力を活用して生活を整えることは、こころと身体、社会とのつながりを整えます。
子ども、障害のある人、高齢者、さまざまな困難を抱えた人、そして職員や地域の人、すべての人の小さな声を大切にし、つながりをつくり、可能性を最大に広げることが私たちの使命です。
日々の生活を整える実践から、30年後の社会を変えるアクションを生み出します。
「施設らしい」行事よりも、冬休みはスキーにいく、お正月はお餅を食べる、など家庭の当たり前の季節行事を。
施設で夏祭りをするのではなく、地域の夏祭りに参加する。
園庭で遊ぶ、ではなく公園で遊ぶ、など。
「町中の、暮らしと共に」子どもたちが過ごしていくことをイメージしています。
「共生」という言葉が、誰かの美辞麗句として消費されるだけでは、現実の排除や孤立を覆す力にはならない。市川沙央氏が鋭く指摘したように、当事者不在の議論は「共生」の理念を空洞化させる。
実籾パークサイドは、その問いに対する実践的な応答のひとつである。制度の壁に挑み、行政の慣習に抗いながら、子ども、高齢者、障害者、地域住民が共に暮らす場を築こうとしている。
決してすべてがうまくいっているわけではない。職員の確保が進まずに休止状態にある事業もある。取材当日も、子どもたちが割ったガラスの修理をどうするか、施設長や施設のスタッフは頭を抱えていた。
課題は山積し、批判もある。しかし、それでもなお、理念を掲げるだけでなく、生活の現場で「共に生きる」ことを模索し続ける姿勢にこそ、未来への希望がある。共生とは、完成された理想ではなく、日々の実践の積み重ねである。だからこそ、筆者はこの挑戦を応援したい。
