難しい仕事こそがチャンス
「やってみる」が合言葉
やがて、仕事を一切断らない加藤さんの姿勢に惚れ込む人が現れて、ある日、とてつもない仕事が舞い込むことになった。三菱重工業名古屋誘導推進システム製作所、通称〝名誘〟から、ロケットエンジンの配管の製作を依頼されたのだ。
「三菱さんの仕事は要求水準が高く断念する会社も多いんですが、もっと上に行くにはやるしかない。もちろん、できます! と答えました」
注文は先端がラッパ状に広がったフレア配管である。取引先の技術者に知恵を借り、専用の工作機械まで借り受けてなんとか完成にこぎつけると、以降、航空・宇宙関連の仕事が次々と入るようになった。
そうなったら止まらない。自称〝物好き〟の加藤さんは小型のロケットエンジンまで自作してしまい、一時期、取材が殺到する事態となった。
「宇宙工学が専門の東大の中須賀真一先生から、『加藤、ロケットエンジンを作れるか』って聞かれたもんで、『もちろん作れます』と答えました。若い社員たちに、ものづくりの面白さを伝えたかったんです」
その面白さ、果たして社員に浸透しているだろうか。今回のつくりびと、榊原弘康さん(40歳)は、30歳で加藤精密工業に転職して以来、一貫して溶接作業を担当している。
航空・宇宙関連の仕事には、やはり夢やロマンがありそうだが。
「実は、僕が航空・宇宙関連に手を出せるようになったのは、ここ3年くらいのことなんです」
なんと7年間は、材料に触ることすらできなかったという。
「溶接って、理屈じゃなくて感覚的な世界なので、何回も何回もやらないと身につかないんですよ」
榊原さんによれば、溶接の質を左右する要素は複数あるという。熱の入れ方、溶接棒をどれだけ溶かし込むか、余盛(表面からの盛り上がり)の高さと角度、ビードの幅……。
「熱の入れ過ぎもダメですが、しっかり熱を入れないと材料が溶け合わない。余盛の高さやビードの幅にムラがあると強度が均一にならないので、そこから破損したり液体やガスが漏れたりするんです」
つまり、すべてを最適かつ均一にするのがベストなわけだが、それには同じ動作とスピードを維持しつつ、一気に溶接を進める必要がある。
