経済成長のために女性や外国人労働者の力が必要とされている現在の日本では、倫理的問題を抜きにして、経済合理性の観点のみから見ても、着実に多様性への歩みを進める方が賢明であり、こうした取り組みを成就させ、世界へ発信していくことは日本の国益に叶うことであろう。
資源に乏しい「貿易立国」
日本がなすべきこと
第二に、米国がリベラルな国際秩序に背を向けられるのは、今もなお、世界一の超大国だからである。もともと米国のリベラルな国際秩序へのサポートが進められたのは、それが国益と一致したからだった。左派の理想主義的な人権と民主主義へのコミットメントと、右派の現実主義的な超大国としての国際政治と国際経済の支配という利害が一致し、米国全体の利益としてリベラルな秩序が支持されていたのである。
国内の事情でその方向性が変わって孤立主義に傾斜しても、国内経済は外需に依存しておらず、エネルギーも食料も国内自給率が高く、近隣に脅威になるような国もなく、国の存立が脅かされたり、現在の領土が奪われるようなことは考えにくい。
一方、日本は、国際社会で孤立しては資源の安定供給もままならず、自由貿易なしでは経済の存立基盤が奪われるし、近隣には領土問題があり、脅威になる国が複数ある。
そして、自由貿易による経済発展、法の支配による秩序の維持、平和的な紛争解決などは日本の国益に直結する価値観そのものであり、リベラルな国際秩序の恩恵を最も受けてきた国の一つが日本なのだ。米国がこれらの価値観に関心を失っている今こそ、日本が世界の先頭に立ってこの穴を埋めるべきだ。
早くから中国の台頭に対処しなければならなかった日本は近年、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)、日米豪印戦略対話(QUAD)といった多国間の枠組みで、リベラルな秩序を守る努力を積み重ねてきた。日本の国際援助を担う国際協力機構(JICA)の世界中での貢献は広く認知されるところであり、東南アジア諸国連合(ASEAN)との様々な協力やアフリカ開発会議(TICAD)などで、グローバルサウスでの信頼も得てきた。日本はこうした多角的な外交努力の成果の上に、リベラルな国際秩序のリーダーとなる資格を持っている。
現在の米国での揺り戻しは、急激に右側に振り子を戻そうという動きであり、早晩これに対する左側への揺り戻しが起こるであろう。その後振り子がどの辺りで落ち着くかはまだ見通せないが、米国がどの方向に動くにせよ、日本は自国にとってのリベラルな価値観の意義を再確認し、それに基づく国際秩序を守ることに尽力することが、最も国益に資する針路だ。
