出現する北極海航路
中国国営新華社は10月14日、中国の貨物船が初めて北極海航路を利用して英国のフェリクストウ港に到着、出発した浙江省寧波からの航行日数は、インド洋からスエズ運河を経由する従来の約半分の20日間だったと伝えている。
地球温暖化の影響で北極海では今、海氷の融解が速まり、30年ごろには夏季の海氷がすべて消失し、ロシア沿岸を通る北極海航路は5月上旬から12月まで商船等の航行が可能となり、30年代半ばには通年航行も可能と予測されている。
新華社が伝えているように、北極海航路を使えば、航行日数や船舶のエネルギー消費は激減し、中東周辺におけるテロや海賊などのリスクも軽減される。地理的な恩恵を受ける日本や韓国、そして台湾などの国や地域にとって、新たな航路の誕生は本来歓迎されるべきはずだが、新航路のアジア側の出入り口となる日本列島の周辺海域では、すでに中国とロシアの軍事行動は活発化し、日本は脅威に直面しはじめている。
中国の「氷上のシルクロード」構想という思惑
沖縄・尖閣諸島の周辺海域や南シナ海で国際法を無視し、力による現状変更を目論む中国は17年、ロシアと連携し「氷上のシルクロード」構想を掲げ、翌18年には初の「北極白書」を公表。自らを「北極近傍国家」と名乗り、北極海航路の開発利用、海底資源の開発など北極海への進出を明らかにしている。
冷戦時代、海氷に覆われた北極海は、核を搭載した米ソの戦略原子力潜水艦が直接対峙する海であったが、今後、北極海航路の利活用に伴い、ロシア海軍は欧州からアジアまで幅広い戦略機動が可能となり、しかも中国海軍と連携することによって、北極海からベーリング海、アリューシャン列島や千島列島の周辺海域で、中露共同演習などが頻繁に行われることになるだろう。
米国のトランプ大統領が就任前の24年12月、「アメリカには(北極海に位置する)グリーンランドの所有と管理が絶対に必要だ」と発言した背景には、北極における圧倒的な存在感を示すロシアと、氷上のシルクロード構想で北極進出への野望を隠さなくなった中国に対する安全保障上の強い懸念がある。さらにトランプ大統領は「双眼鏡を使わなくても北極海には中露の船が至る所に見える」とも語っており、北極海は今後、中露の艦艇や戦略原潜が遊弋する新たな戦域(シアター)になることが予想されている。
そのうえ、長く海氷に閉ざされてきた北極海およびグリーンランドなどの北極圏域には、天然ガスなどのエネルギー資源に加え、様々な鉱物資源やレアアース(希土類)が眠っており、豊富な資源をめぐる争奪戦も予想される。しかし、ここでも資源の占有を狙った中国とロシアの連携が確実視されている。
