2025年12月7日(日)

21世紀の安全保障論

2025年11月4日

はじまった中国のシーレーン防衛

 前述したように、日本周辺海域が北極海航路のアジア側の起点となることで、まもなく東シナ海と日本海、そして北海道周辺を経由してオホーツク海からベーリング海へと連なる新たなシーレーンが出現する。海上防衛の用語に、船舶が必ず通過しなければならない洋上の要衝を「チョークポイント」というが、まさに宗谷と津軽の両海峡に加え、長崎の対馬、鹿児島の大隅、沖縄の宮古などの各海峡がチョークポイントになる。

 『防衛白書』は毎年、「海上交通の安全確保のための作戦」という項目を設け、シーレーンについて「わが国の生存と繁栄の基盤を確保するための生命線」と位置づけている。エネルギー資源を輸入に依存するわが国の場合、中東・ペルシャ湾からインド洋、マラッカ海峡を経て、南シナ海から日本に至る約1万2000キロにおよぶ航路の安全が死活的に重要だからだ。

 中国が南シナ海に人工島を造成し、軍事基地化することは日本のシーレーンを脅かすことであり、米国などが「航行の自由作戦」を展開し、海上自衛隊が南シナ海で多国間演習を行っているのは、シーレーンを守るためだ。

 だが、この理屈は北極海航路という新たなシーレーンを活用する中国も同じで、シーレーンの安全かつ安定的な利用は絶対に欠かすことのできない国益となる。中国はそれを守るために、タンカーなどの商船警護を名目に軍事行動を活発化させることは確実だ。

 すでに21年から常態化している中露海軍による共同パトロールに加え、中国は24年10月、海上警備を担う海警局の巡視船がロシア国境警備隊の船舶と共同航行し、日本海から宗谷海峡を抜けて、初めて北極海に到達したことを公表、中国国営中央テレビ(CCTV)は「不慣れな海域での任務遂行能力を検証するため」と説明している。

 中国はロシアと連携しながら北極海航路の利活用を見据えたシーレーン防衛を本格化させはじめたと認識すべきだろう。と同時に、今後は東シナ海から日本海、そしてオホーツク海や西太平洋など日本周辺海域で、中国海軍と海警局、さらにロシア海軍と国境警備隊の艦船が恒常的に展開、活動することを想定しておかなければならない。

日本が独自に急ぐべき対応策

 日本列島のすべてが中国のシーレーンに取り囲まれる状況を念頭に、まずはチョークポイントとなる宗谷・津軽・対馬など海峡の警戒監視を強化する必要がある。それには南西重視にシフトしている今の防衛戦略を見直し、南西と北方の2正面重視型の戦略に移行することが重要で、陸海空自衛隊の戦力配備を転換させる必要がある。

 警戒監視については、すでに海上保安庁が22年度から3機の偵察型無人機を運用し、海自も28年度から同型機の導入を決めており、今後は東シナ海から日本海、そしてオホーツク海を含めた日本周辺海域における哨戒活動を、海保と海自が24時間態勢で協働し、情報の共有化を急ぐ必要がある。

海保が導入している偵察型無人機・シーガーディアン(筆者撮影)

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