2025年12月7日(日)

21世紀の安全保障論

2025年11月4日

 これら防衛警備に加えて政府が急ぐべきは、国家安全保障戦略の視点から外資による土地買収を規制することだ。中国は「北極白書」を公表した18年に李克強首相(当時)が、翌19年には王岐山国家副主席(同)が北海道を訪れ、苫小牧や釧路、札幌などを視察している。

 苫小牧と釧路は北極海航路のハブとなる港であり、新聞報道等によれば、すでに中国資本によって港湾周囲の土地が集中的に買い占められているという。政府は緊急に実態を調査し、対策を講じなければならない。

 さらに、チョークポイントとなる青森・津軽や鹿児島・大隅など狭隘な海峡について、領海幅の見直しを含め、政府は海峡管理の法的および実効性を強化しなければならない。

日米そして同志国との連携

 グリーンランドの所有に意欲を見せるトランプ大統領だが、造船力が低下した米国の北極海での活動能力は、砕氷船が2、3隻しかなく極めて限られている。日本は現在、北極圏の観測・調査を目的に、砕氷船「みらいⅡ」を建造、26年11月に就役する予定であり、この分野での日米協力を推し進める必要がある。

 また、これまで沖縄・南西諸島方面で重点的に行ってきた自衛隊と米軍との日米共同統合演習を日本海からベーリング海方面にまで拡大し、北西太平洋も含めた日米のプレゼンスを示す必要がある。同時に、北極海航路を利用することになる韓国にとっても日本周辺海域の安定は重要であり、日韓の連携を強めるためにも、米国を中心とした日米韓の枠組みで演習を実施することも価値ある選択肢となるはずだ。

 ただし、欧州から見れば、北極海航路の利用が拡大しても、極東の外れにある日本の周りで脅威が増すことには思いが至らない可能性があり、政府は日本周辺で活発化する中露の軍事行動を詳細に発信することが重要だ。それにあわせて、現在、南シナ海や台湾海峡で米英仏、カナダ、オーストラリア海軍などが行っている「航行の自由作戦」を、東シナ海から日本海へと拡大し、海自や海保が同志国の海軍や沿岸警備隊などの艦船をエスコートしながら航行することを試みてもいいと思う。

 見直される戦略3文書では、北極海、そして新たな北極海航路を、力による現状変更を目論む中国とロシアの占有物にはさせないという明確な意思と、その裏付けとなる能力構築の道筋をしっかりと明記する必要がある。

Facebookでフォロー Xでフォロー メルマガに登録
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。

新着記事

»もっと見る