他の湖にしても、ウナギの占める割合はわずかである。したがって、この点だけを見ても「ウナギが増えている」という結論の不確実性は高い。
加えて、ウナギが遡上する湖沼の一部では、ウナギ成魚の放流が盛んに行われており、例えば霞ケ浦では半数近くが放流個体であったとの調査がある(Arai et al. 2019)。しかるに「ウナギが増えている」と結論付けた報告の資源量算定モデルでは天然のウナギを想定している。前提から問題があると言わざるを得ない。
水産庁の論拠からも、やっぱりウナギは減っていた
水産庁が依拠している論文も、よく見てみるとウナギは実は減っているという結論が現れている。Tanaka (2014)がデフォルトとしているシナリオ(下図S1シナリオ)では、ニホンウナギの生育場の環境が資源量推定を行った1950年代以降、資源環境が一切劣化していないというおよそ非現実的な前提に基づいている。他方、この報告では自然環境が劣化しているという、より現実的なシナリオ(下図S6シナリオ)も検討されており、こちらでは資源は1980年~2010年の間に約6割も減少しているという結果が出ている(Kenzo Kaifu (2025), “Briefing on Japan’s Claims Regarding the Japanese Eel.” (未公刊原稿、海部健三・中央大学教授より入手)以下(Kaifu 2025)と表記)。
にもかかわらず、水産庁が依拠する報告(Tanaka 2014)は、なぜこのシナリオを除外したのか十分な説明が全くなされていない。説明がなされていない以上、この報告から導き出せるのは、ウナギが増えているか減っているかはわからない、生息環境が悪化しているとの前提を採用するならば、むしろ減っているということになるだろう(Kaifu 2025 、およびビデオニュース・ドットコム「日本人が愛するウナギは科学的データに基づいた保護を」)。
14年の資源評価に関する報告をアップデートした論文(Tanaka 2025)はさらに問題がある。どういうわけか、何の理由もなく、資源減少する結果を導いた環境悪化シナリオがアップデートされた論文では検討もされていない(Kaifu 2025)。
また、新しい報告でも、資源が大幅に減少している結果(S2シナリオ)が現れたにもかかわらず、議論で一言も言及していない。このシナリオを排除しないならば、資源は増えているとも言えるし、減っているとも言えることになってしまうだろう。
まとめよう。水産庁が「ウナギは増えている」という主張の論拠とする報告は、「ウナギは減っている」という結果を示すシナリオを含んでおり、このシナリオを排除できる説得的な理由が何も示されていない。これらの論文を根拠に「ウナギが増えている」と主張することは、到底妥当と言えない。
ウナギ判別の困難さ
ワシントン条約へのウナギ掲載提案は、ニホンウナギが減少しているという点だけではなく、既に掲載されているヨーロッパウナギと類似していて税関職員などによって容易に見分けがつかないという点にも依拠している。この点について水産庁は、「稚ウナギは形態的に判別可能」「ウナギ製品を迅速に判別できる技術が開発中」としている。
しかし、わずかな外見上の差異から稚ウナギの種類を判別することは専門家でも困難であり得る。日本が言及しているカナダ企業WildTechDNA社の判別キットにしてもまだ開発段階で、カナダ政府の報告書によると20%の偽陽性が確認されており、しかもキットで検査するためには18℃以上にする必要があり、冷凍された製品にそのまま使うことはできない。




