小区画の圃場では、トラクターやドローンが効率的に旋回・走行できない。また中山間地ではGPS信号の取得精度も不安定で、スマート農業のメリットを発揮しにくい。さらに水管理の区画が細かく分かれるため、自動給水装置などの導入コストが高くつく。
たとえこれらのスマート農機を導入しても、単位面積当たりのコストが高くなりがちで負担軽減や省力効果はさほど期待できず、大区画に比べるとスマート農業導入には不利な点が多い。
楪園芸は、「増え続ける中山間地の耕作放棄地を活性化させることで、次世代へ、持続可能な農業をつなぐ」ことを理念に、2017年に設立された。
代表の柏原秀雄氏と30歳台の2人の息子が中心となり営農を始めた。中山間地域にある放棄地や遊休地は、一般的に農作物を育てるのが難しい条件不利地。そこで、土壌が肥沃でないところでも育ちやすいさつまいもを、独自に開発した土壌改良資材を入れ、農薬や化成肥料はほとんど使用せず栽培を開始した。
さつまいもは、今ではもっとも楪園芸で生産量が多く、その加工品の干芋は、人気商品になっている。現在の事業は、農産物の生産・加工・販売、自社製土壌改良資材の製造・販売、コントラクター事業など多岐にわたっている。
節水型乾田直播栽培を取り入れたコメづくり
同社の主軸には長ネギもあるが、柏原さんが次に目を付けたのがコメ生産の強化だ。3年ほど前までは米価が低く、再生産できる価格ではなかったが、最近の価格高騰でやっと生業として栽培できる環境が整ってきたそうである。
取り入れたのが節水型乾田直播栽培(以下「節水型乾田直播」)だ。この方法では、「田植えをせずに直接、種を田に播き、水の使用を最小限に抑えることで、栽培コストを大幅に削減し、通常の湛水栽培で発生するメタンが大幅に抑えられるという環境負荷軽減の効果が期待される」(参考:筆者記事「オーストラリアで見たコメ消費の現実 Wedge ONLINE、2025年3月21日掲載)。
作業負担の大きい田植えが不要となるため、省力化できる。その上、田んぼに水を入れ、土を砕いて均一にする代かきも不要となる。

