2025年12月6日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年11月14日

 トランプ大統領がイランの核施設への攻撃を命じた時、湾岸地域のアラブ産油国と同大統領の米国の支持者達は、その後のエスカレーションを恐れて攻撃に反対した。トランプ大統領もそのようなエスカレーションは予想していたが、国防総省が攻撃のダメージ評価を行う前に「イランの核開発能力は跡形も無く破壊された」と宣言して、イスラエルにイランへの攻撃を止めさせた。

 こうして、この戦争は、果たしてイスラエルが作戦目標を達成したかどうか判明しないままに終わった。また、シリアでも、米国がシリア問題に関わり合うのを止め、シャラア暫定大統領の新政権が制裁解除の条件を満たすかどうか確認する前に制裁を解除した。

 何十年間も、米国大統領は中東で抜本的な変化をもたらそうとして来た。そのためにイラク、リビア、イエメンでレジーム・チェンジを追求し、他の国々では民主化への圧力を掛けた。

 しかし、トランプ大統領は第2期政権で、米国が中東で何ができるのか、できないのかについて現実的なアプローチをしている。ただし、その結果を過剰に吹聴している。

 これまでの大統領は、今回のガザの停戦のような中途半端な停戦を以て和平が達成されたとは言わなかった。後世の歴史家も、和平が達成されたと見なさないだろう。

 さらに、恐らく、6月のイスラエルと米国の空爆は、イランが密かに核武装する背中を押したことが判明し、シリアのシャラア暫定大統領は、結局、イスラム原理主義者の独裁者だったと分かるだろう。混乱を巻き起こすことがトランプ大統領の中東政策の強みかも知れないが、弱点かも知れない。

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永続性のない成果

 トランプ第2期政権の中東政策に対する興味深い論考である。トランプ大統領が、ガザで2回の停戦を実現し、イスラエルとイランの衝突を強引に止めさせた事等、中東で成果を挙げているように見えるのは、歴代米大統領のように「中東の民主化」と言うようなイデオロギーに基づく政策ではなく、米国は何ができるのかを自覚した上で出来ることをしているお陰であり、同大統領の「予測不可能性」のような個人的な資質によるものではないというのは、鋭い指摘である。

 しかし、米国ができることという「手段」にばかり着目し、中東の諸問題の解決という達成すべき「目的」をないがしろにしたために、その成し遂げた成果に永続性がないように思われる。

 例えば、6月のイスラエルのイラン空爆は、イスラエルからすれば攻撃を有利に進めていたのにもかかわらず、トランプ大統領が米軍のイラン空爆と引き換えに強引に幕を引いてしまったため、イスラエル側は、その作戦目標(恐らく、最低限イランの核開発計画を破壊し、可能ならばイスラム革命体制の崩壊)を達成していないと思われ、年内にイスラエルがイラン攻撃は再開する可能性が高い(来年になると米中間選挙のキャンペーンが始まりトランプ大統領との関係が難しくなろう)。さらに、イランは、イスラエルの攻撃で核抑止の必要性を再認識して核武装を決意したかも知れない。


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