2025年12月11日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年11月20日

 第二に、議会は、党派的に大統領の代弁者となるのではなく、まともなブレーキ役を果たすべきである。予算上のチェック、公聴会などそのための手段はある。

 第三に、メディアは、確証がないにもかかわらず、最悪の事態を想定することを拡大すべきではない。

 第四に、同盟国、相手国と直接に関与すべきである。もしも米国が他国の実験についての対応措置をとろうとするのであれば、誤解を避けるためには外交が最良の手段であろう。ロシアの政府関係者は、ロシアによる最近の運搬手段の実験をCTBTによって禁じられている爆発性核実験と混同すべきではないと述べている。

 トランプの核についての発言には大きな振幅がある。ある時には非核化外交を唱え、別の時には米露中の三者による核軍拡競争に至りかねない爆発性実験を示唆する。

 抑止において予測不可能性は危険である。それは、相手国を恐れさせるからではなく、同盟国間の信頼を損ねるからであり、計算違いの可能性を作るからである。

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トランプ発言の解釈

 10月30日のトランプ大統領の「核兵器」の実験再開発言が明確さを欠いたものであり、さまざまな解釈が可能であることは、日本のメディアでも大きく取り上げられた。

 上記の論説は、トランプ発言の可能な解釈として、①政治的ジェスチャー、②運搬手段の実験、③未臨界実験、④核実験と四つの可能性を示し、④である場合の諸問題(ロシア、中国の対応、国内での環境への影響、法的・規範上の問題、同盟への悪影響)を指摘した。

 トランプ発言が実際に何を意味しているのかの議論は、11月2日、米国エネルギー省のクリス・ライト長官が「現在、われわれが議論しているのは、システムの実験である。これらは核爆発ではない。これらは、臨界に達しない爆発と呼ばれるものである」と述べたことで、上記の③(未臨界実験)ということで一応の決着を見た。

 一方、なぜ、トランプが思わせぶりなSNS投稿を行ったのかを考えてみると、トランプが状況を正しく理解していなかった可能性が考えられる。周知のようにロシアは原子力推進巡航ミサイル「プレヴェストニク」の発射実験を10月21日に行った。トランプが(他国と)「同等の立場で」核兵器の実験を「再開」するようにと述べたのは、ロシアが核実験を行っていると誤って理解し、「米国だけが手を縛られているのはおかしい、米国も核実験を再開すべきだ」との反応となったという可能性である。


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