2025年12月14日(日)

Wedge REPORT

2025年12月3日

 ③の高額購入者の「検査回避」と制度の限界も明確になっており、日本チェーンドラッグストア協会資料によると、1億円超購入者の税関検査率は約15%にとどまり、残る約85%は確認を受けずに出国している。課税処分をしても大半が滞納に終わり、税関の人員・設備制約もあり実効性は限定的だ。

 このように、購入時に免税を適用してしまう構造自体が、追跡・回収を困難にしている。みずほ銀行も「現行制度は利便性が高い反面、管理・徴収コストが突出して高い」と指摘しており、制度の抜本的な再設計が求められている。

突如浮上した「廃止論」のリスク

 こうした問題を受け、政府は26年11月をめどに、免税制度を現行の「店舗免税型」から、欧州諸国と同様の「リファンド(還付)型」(正確には日本では返金型、ただし世界的には還付型という表記が一般的なので本稿では制度に関しては還付を使用)に改める方針を提示した。これは、一度税込で購入し、出国時に税関が国外持ち出しを確認した上で、消費税を返金する仕組みだ。

 この改革は、不正抑止を主目的としつつ、データ連携の強化によって税務・観光両面での透明性を高める狙いがある。フランス、シンガポール、韓国などではすでに主流の方式であり、日本も国際標準へと歩みを進めている。

 リファンド型の導入により、不正取引は大幅に減少する見込みである。出国時の確認を経て初めて返金されるため、制度の信頼性は格段に高まる。みずほ銀行産業調査部の分析でも、リファンド型は税収実効率を高めつつ、観光立国としての国際的信頼性を強化する有効な選択肢とされている。

 ところが25年6月、国会議員の一部が「免税制度そのものの廃止」を求める提言を政調会長に提出した。背景には、「外国人優遇」「財源不足」「オーバーツーリズム対策」といった政治的キーワードがある。確かに免税廃止は短期的には消費税収の増加をもたらす。

 しかし、同時に訪日客の購買意欲を冷やし、観光消費全体の縮小を招くとの懸念が経済界から相次いでいる。免税を全面的に廃止した場合の影響は日本旅行の調査によると、制度廃止時に訪日外国人数が約524万人減少し、買い物支出も一人当たり5000~1万円減ると推計している。これにより直接消費は1.3兆円減少、生産波及効果は2.7兆円、雇用は22万人、税収は2800億円減少するという。

 ジャパンショッピングツーリズム協会(JSTO)や旅行業界17団体は10月、共同で免税制度維持を求める提言を発表 。制度廃止による訪日消費の減少を約1兆4300億円、税収減を約3000億円と試算した。

 たとえ消費税収が2000億円増えたとしても、総歳入ではマイナスに転じる試算なのだ。つまり、単年度の税収増を得る代わりに、日本全体の稼ぐ力を削ぐリスクもある。

日本での旅行消費額が高い上位5カ国でも免税制度廃止によって消費額が減少する(出所)外国人旅行者向け消費税免税制度廃止による影響調査 写真を拡大

 つまり、短期的な消費税増収を上回る規模で、経済全体のマイナスが生じる可能性が高い。さらに長期的には、観光競争力の低下が懸念される。


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