トランプは、麻薬の流入や不法移民が米国の安全にとっての最優先事項であるとし、国内産業を衰退させた不公正な貿易関係を是正するためにトランプ関税を導入し、既存の同盟関係や国際機関においてもできるだけ米国の負担や責任の軽減を押し進めた。また、相手国に対して強硬措置に打って出て、ディールによって勝利を演出する戦術に重点を置き、大胆な軍事力行使も行うが、空軍力による短期的な関与に留めて来た。これらは長期的な戦略ではなく短期的な成果で満足する点でジャクソニアン外交に符合する。
しかし最近では、例えばガザについての和平提案は、米国が長期的な関与をコミットする内容を含むものであり、また、この論説が取り上げる対ベネズエラ政策についても、不法移民や麻薬との関連だけではなく、中国、ロシア、イランとの地政学的な利害や世界最大の原油埋蔵量を有する点を指摘し、ベネズエラを親米国化する意義を説いて、トランプの政策を正当化している。
対象は限定的か
これらの政策は長期的な戦略的関与を必要とするもので、従来のトランプ風ジャクソニアン外交の枠を超える側面があることが注目される。ミードの説明は、ベネズエラが例外的現象というよりも、これまでのジャクソニアン外交では中国やロシアの影響力拡大を阻止できず、結果的に米国の安全を害されることをトランプが認識し、より戦略性を持った外交により国際秩序を再編(reshape)しようとしているのだと示唆している。
再編の意味が必ずしも明確ではないが、既存の枠組みの中での役割の見直しにより米国の関与が低減する場合でも、そのような枠組み自体の維持管理に長期的に関与するという意味であるとすれば、それは西側同盟にとって良い兆しと言えるであろう。
他方、米国の名誉や安全という場合には、米国本土と西半球、白人やキリスト教徒が念頭に置かれる場合が多く、これらの点にこだわり続けるとすれば、国際秩序再編の対象が特別な同盟国であるイスラエルや米国の裏庭のラテンアメリカに限定される可能性もあろう。
ベネズエラの今後については、政権転覆の具体的シナリオは依然として不明だが、もし、米国が南米での武力紛争に深入りするようなことになれば、相対的にアジア太平洋や欧州への関心や配慮が弱まる懸念もある。
