2025年12月16日(火)

家庭医の日常

2025年11月30日

 72年に出版された彼の代表的著書『Effectiveness and Efficiency: Random Reflections on Health Services(効果と効率:保健医療サービスに関する雑感)』によって提唱したRCT推進活動は、最終的に、システマティック・レビューのデータベースであるコクラン・ライブラリー、そして世界各地の研究機関に拠点を置く臨床研究評価グループのネットワークへ発展して、現在では「コクラン」とのみ呼ばれる国際組織の設立へとつながったのだ。

 彼の著作の99年改訂版について、英国の大学ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのPHC部門のアカデミック家庭医トリシャ・グリーンハル教授が書評を書いており、2004年出版の英国医学雑誌『The BMJ』に掲載されている。彼女は下記のような賛辞を送っている。

 「コクランの揺るぎない道徳的勇気、真実を追求する不屈の精神、そして学術界の権威に対する彼の批判精神は、倫理委員会や研究助成機関、学術誌編集者との些末なやり取りに研究時間の大部分を費やす研究者にとって、今もなお大きな刺激となっている。(中略)彼は私たちが医療行為を体系的に検証することを教え、NHSにおける応用研究と医療の質の向上という土台を築いたのである」

患者の「真の代理人」として

 まだ多くの医療行為が有効性を裏付ける十分な証拠もないまま実施されている。こうした状況下で、家庭医には、科学的根拠がある場合にはそれに基づく医療を推進する(さらにはPHCの現場からエビデンスを生み出す臨床研究に参加する)一方で、それが画一化して患者の意向に沿わないケアに陥らぬように、患者の「真の代理人」として(私利私欲を超えて)何を優先すべきかの判断に迫られる。

 「先生、まだまだやらなきゃならいことが山積みだね」とR.G.さん。

 「そうだね。でもあの時に生き延びた命だからね、一緒にできることをしていきましょう」

 「一緒にうまい酒を飲むために(笑)」

 「あくまでほどほどに、ですよ(笑)」

Facebookでフォロー Xでフォロー メルマガに登録
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。

新着記事

»もっと見る