ドイツ日本研究所のマスロウ研究員が、6月2日付Diplomat誌ウェブサイト掲載の論説で、5月の日朝合意で示された日本の対北朝鮮政策は極めて現実的なものであり高く評価できる、と述べています。
すなわち、日本の対北朝鮮政策におけるプラグマティズムへの復帰の結果、2013年10月以降、北朝鮮との公式・非公式の対話が行われており、5月26-28日のストックホルムにおける外務省局長レベルの協議が実現した。この協議において、北朝鮮は、拉致問題に関する調査を再開するとの驚くべき約束を行った。
このような最近の動きは、日本の対北朝鮮政策にとってどのような意味を持つのであろうか?第1に、ストックホルムでの合意は、平壌が未解決の拉致事件につき再調査に同意した2008年の時点に両国関係が戻ったことを意味する。
第2に、今回の合意は、2002年の小泉・金正日首脳会談の準備段階における一連の秘密交渉に匹敵する双方間の信頼レベルの高まりを示唆している。交渉に掛ける日本のコミットメントの強さはストックホルムでの合意につき秘密管理がしっかり行われたことにも窺われる。協議の結果は、伊原局長が帰国し、安倍氏への報告が終わった後で初めて公表された。
第3に、今回の合意では、北朝鮮は第2次大戦の最後に北朝鮮で死亡した日本人の遺骨を含め、全ての拉致被害者及び拉致された可能性のある人々につき再調査を約束している。これは、東京にとって大きな外交的勝利である。北朝鮮は、拉致問題は「解決済み」であるとの従来の主張を変えたことになるからである。更に、北朝鮮は、調査のための委員会を早急に設置し、日本側に信頼できる情報を提供することを約束している。
第4に、以上の成果の代償として、日本側は北朝鮮に対する独自の制裁の見直しを約束している。この約束の目玉は、北朝鮮関連の個人に対する日本への旅行制限の緩和と北朝鮮船籍の船舶に対する寄港禁止の解除である。万景峰号92がこの合意に含まれるか否かは明確でない。また、今回の合意は、北朝鮮の核・ミサイル開発や日朝関係正常化のタイム・テーブルなどについては、言及していない。