2020年、伊藤忠商事は「三方よし」を企業理念とする決定を下している。時価総額でトップに立つ日本一の商社が取り入れる近江商人の知恵、そこには難しい時代だからこそ、原点に立ち返ろうとする意志が感じられるのは筆者だけだろうか。他国で受け入れられるための〝三方よし〟ほど、世界を股にかける商社に相応しい姿はないと思うのだ。
思い出すべき日本人のメンタリティー
資源に乏しい日本、世界に開かれた海洋国家の日本にとって、グローバリズムの重要性は議論をまたない。一方、行きつくところまで行きついた感のある新自由主義はどうか。
その一つの側面である過度な利益重視、資本家重視の企業姿勢は、格差を拡大し、社会の不安を高める弊害も明確になっている。近江商人の知恵、いま風に言い換えるなら、ステークホルダーすべてを大事にする姿勢こそ、今、日本企業が見直すべき道なのではないか。
さらに、素人考えを恐れずに言えば、甲州財閥が目指した道、同じ価値観を持つ同士(同郷意識でもあるが)がゆるやかに連携し、将来性ある事業に進んで投資してゆく商人道も、同じではないか。株の持ち合いが急速に解体されつつある日本企業、もたれ合うことで成長を止める姿勢は論外として、競争より、同じ目的のもとで支え合おうとする日本人のメンタリティーが、すべて悪とは言えないだろうと思う。
伊藤忠兵衛と根津嘉一郎、日本経済の歴史を担ってきた二人の偉人は、今につながる多くのことを語りかけてきた。多忙な日々の束の間、旧宅を訪ねてその生涯に思いを致すことも、或いはビジネスの一助となるかもしれない。
