「生活保護の申請は国民の権利です」市長のメッセージを裏切れない
実は、筆者が南魚沼市のことを知ったのは、今回の一件がはじめてではない。
21年8月、コロナ禍の真っただ中のことである。観光業や飲食業などを中心に、困難に直面する人々が続出した。これに対して、札幌市をはじめとしたいくつかの自治体が「生活保護の申請は国民の権利です」というポスターの掲示をはじめた。
この動きは全国の自治体に波及し、厚生労働省もウェブサイトに「生活保護の申請は国民の権利です。生活保護を必要とする可能性はどなたにもあるものですので、ためらわずにご相談ください」と掲示し、厚労大臣がビデオメッセージで呼びかけるに至った。今も厚労省のウェブサイトに、この言葉が掲げられている(厚労省「生活保護を申請したい方へ」)。
南魚沼市がポスターを掲げたのは21年10月のことである。筆者が知る限り、トップがみずから市民に呼びかけたのは、全国でも南魚沼市の林茂男市長だけである。
全国の自治体に自主点検の動きが広がってほしい
「生活保護制度は複雑で、どれだけ丁寧にやってもミスが起きることがあります。南魚沼という小さな自治体でも、5件の誤りが見つかった。他の自治体でも、詳しく確認すればミスは見つかるでしょう」
高野氏は言葉を続ける。
「全国の自治体に自主点検の動きが広がってほしい。そのために、まずは南魚沼市の周囲の自治体を巻き込んでいきたい」
南魚沼市では、周辺のいくつかの自治体と一緒に職員研修を企画している。将来的にはシリーズ化していきたいという。
「19年から、コロナ禍の中断をはさみながらも、福祉事務所の内部研修を続けています。周辺自治体や社会福祉協議会にも参加を呼びかけています。今は一方的に誘っている状況ですが、顔の見える横のつながりを作り、一緒に勉強していくことのメリットを感じてくれれば、周辺自治体でも同じように取り組んでくれることを期待しています。
誤解を恐れずに言えば、生活保護業務はしんどい仕事です。自治体が違っても、そこで働く人は『仲間』だと思っています。
仲間には、おかしな仕事はしてほしくないです。どれほど真面目に仕事に取り組んでいたとしても間違いやミスは起こります。今回の私たちのようにその結果は重大なので、厳しい批判にさらされます。個々の職員は真面目に取り組んでいるにも関わらず、事務所が小規模で、十分な研修や育成体制が用意できないために生じてしまう間違いやミスのために、仲間が必要以上につらい思いをすることを防ぎたいのです。
『自身が大切にされている』と感じられない職員が、住民を大切にできないことがあったとしても、無条件に責めることはできないのではないかと感じています」
