本来は国と県の仕事だと思いますが――、高野氏は苦笑しながらも続ける。
「今、南魚沼地域では、私が、一番(生活保護担当の)経験年数が長いのです。抜けた後のことも考えなければいけない。ローテーションは必要だけど、係長が一人しかいない現状では、交代したら知識や技術の継承が難しい。現場経験者を必ず据えられる保証もないし、そもそも福祉をやりたいという人ばかりじゃないんですよね。
異動した途端に『ハンコを押して責任を取る』立場になるのは、正直つらい話です。本当は法改正が必要かもしれませんが、広域で福祉事務所を共同運営できたらいいと思うんです。でも魚沼地域は、面積は神奈川県よりも広い。冬は雪も降るし、一箇所に集約するのは無理です。
だから、今の体制のままでも、専門職を核にして、横のつながりを強化することが大事だと思います。私は依存症が好きなので、他の自治体から聞かれたら喜んで教えますし、逆に障害福祉に詳しい人が隣の町にいるなら、そこに聞ける関係があるといい。年次ごとの集まりや、事務所同士で気軽に相談できる仕組みがあれば、孤立を防げるでしょう。
福祉事務所は合わない人には本当に向いていない。病んでしまう人も多いので、早く異動させないと命に関わります。実際、早期退職になった人もいますし、全国ではケースワーカーの自殺も聞きます。だからこそ、専門性を高める工夫や、横の支え合いが必要です」
不祥事をきっかけに生まれ変わる自治体
自治体の中には不祥事の発生を前向きにとらえ、現場の改善につなげる例もある。
神奈川県小田原市では、16年に生活保護担当職員が「生活保護なめんな」と記されたジャンパーを着用して業務に従事していた事案が発覚し、利用者への差別的姿勢が問題視された。これを契機に第三者検討会を設置し、利用者対応ガイドラインの整備や研修強化など、組織文化の転換に踏み込んだ。
また、国立市では、18年に必要な事務処理が行われず、過支給や支給漏れが多数発生する不祥事が判明した。市は外部専門家を交えた調査検証委員会を設置し、手続・記録・審査の標準化などの取組を進めた。中でも市民向けに新たに作成された「生活保護のしおり」は、平易な文章で制度のしくみを伝えるものとして評価されている。
生まれ変わった自治体の動きを丁寧に追っていくと、そこには必ず首長のリーダーシップと、現場を変えようとする職員の存在がある。
インタビューの最後に、高野氏から読者へのメッセージを聞いた。
「月並みな言い方かもしれませんが、これは全く知らない世界の話じゃないんです。自分には関係ないと思っている人が多いかもしれませんけど、みんな地続きなんですよね。
自分が直接関わらなくても、子どもや親戚、近所の人、同級生など、いろんなレベルで考えると、決して遠い話じゃない。日本では生活保護を利用する人は少ないと言われますが、本当に無関係かというと、そうでもないと思います。
特に田舎の自治体では、同級生が相談に来ることもあるし、血縁のある人が窓口に来ることもあります。それが嫌で相談に来ない人もいるでしょう。そういう現実があるんです」
――そういう市民に少しでも助けになりたいのです。
そう語る高野氏の言葉に、筆者は希望を感じた。小さな自治体の挑戦が、全国に広がる日を願ってやまない。
