2026年1月15日(木)

Wedge REPORT

2026年1月15日

科学リテラシーの重要性は
歴史からも明らか

 歴史を振り返ると、我々一人ひとりだけでなく、為政者、あるいは企業が科学情報を軽視し、政策や行動に生かす力を欠いたとき、社会は深刻な影響を受けてきた。

 石浦氏は、その代表例として、01年のBSE(いわゆる狂牛病)問題発生時の政府の対応を挙げる。

 「日本では『全ての牛肉が危ないのではないか』という不安が社会的に広がった。安全だと言い切れる科学的根拠が不十分だったにもかかわらず、政府は混乱を抑える狙いから、政治家たちが牛肉を食べてみせる『牛肉を大いに食べる会』というパフォーマンスを行った」

 これは、科学的根拠より安心感を演出する方が優先された事例だ。結果的には政府に対する国民の不信感が高まることにつながった。

 世界に目を転じると、別の事例もある。南アフリカでは00年代初頭、当時の大統領が「HIVだけがエイズを引き起こす原因とは限らない」と主張し、抗レトロウイルス薬の導入が遅れた。科学的に有効性が認められていたにもかかわらず対策が遅延し、24年時点で同国人口の13%弱がHIVに感染しているとされる。

 かつての、日本のイタイイタイ病も同様だ。富山県の神通川流域では1910年代頃から原因不明の骨痛が広がり、当初は「風土病」であると信じられていた。50年代に、医師や研究者が鉱山排水に含まれる金属との関連を指摘し始めたものの、因果関係はまだ未確定だった。行政や企業は、その不確かさを理由にし対策を先送りした。結果的に被害は拡大。その後、研究が積み重ねられ、68年に、ようやく公害病として認定された。

 これらの事例は、科学的根拠が十分にそろっていない段階であっても、その時点で得られている情報を為政者や企業が軽視することなく、慎重な判断と早期の対策を検討する、科学リテラシーを持つ重要性を示している。また、我々一人ひとりは、政府や企業の発信をなんら疑うことなく「正しいもの」として受け入れることへの〝良質な臆病さ〟や〝慎重さ〟が必要であることをこれらの事例は物語っている。


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