「海」「空」「サイバー空間」から
中国の”グレーゾン”活動についてはすでに昨年3月、米国の代表的軍事問題研究機関として知られる「ランド研究所」のデレク・グロスマン上級研究員が「台湾に対する中国共産党のグレーゾン戦術(The Chinese Communist Party’s Gray Zone Tactics Against Taiwan)」と題する研究報告書を発表、「海」「空」「サイバー空間」の三分野について、活動例を具体的に説明している。
それによると、まず「海」での活動に関し、①2022年8月、ナンシー・ペロシ米下院議長(当時)訪台に合わせ、中国人民解放軍東部戦域司令部指揮の下、台湾南部および東部地域を対象とした実弾発射および包囲演習を5度にわたり実施し、台湾軍による主たる防衛作戦対象である北部方面以外にも戦力展開できることを実証した。②24年には5月および10月の2度にわたり、台湾行政府指導部に対する威嚇を目的として艦船24隻を動員した台湾海上封鎖の模擬演習を行った。③25年2月、人民解放軍は海上のみならず海面下においても威嚇作戦の一環として、台湾と近隣諸島および世界につながる海底通信ケーブルを切断、台湾沿岸警備隊はこの関連で「トーゴ国籍」の貨物船を拿捕した事案があったほか、その1カ月前には、台湾・基隆港近くで中国側の貨物船が錨を海底に降ろし台湾側の通信用ケーブルをけん引するのが発見された。
「空」からの威嚇活動については、①人民解放軍空軍部隊が19年から、台湾側の了解抜きで戦闘機、爆撃機、偵察機による防空識別圏侵入を繰り返し、20年には、それまでまれだった台湾海峡中央ラインの存在を無視する作戦を活発化させた。②そして22年8月には、J-11、 J-30、 J-16戦闘機多数を台湾海峡中央ライン北側から一斉に侵犯させると同時に、南側でも威嚇作戦を展開したほか、その翌日にも計47機もの記録的規模の作戦機を防空識別圏内に侵入させた。③並行して人民解放軍ロケット軍が最低4回にわたり台湾領空内上空で弾道ミサイルを実弾で発射させ、何発かのミサイルは台湾付近の排他的軍事ゾーン内に落下した。④蔡英文台湾総統(当時)が訪米し、ケブン・マッカーシー下院議長(当時)と会談した23年4月には、対抗措置として作戦機多数による防空識別圏侵犯を1日だけで91回も強行した。
「サイバー空間」においては、①人民解放軍「網路空間部隊」(CSF)が20年、「ColdLock」と呼ばれるランサムウェア・ウイルスを開発し、台湾全土のガソリン・スタンドの25%に当たる電子決済システムを機能不全にしたほか、エネルギー、半導体産業を標的にしたサイバー攻撃を行った。②24年、台湾侵攻に先立って台湾総統府ネットワークを機能不全にする目的で、通信、交通、国防関連サプライチェーンをターゲットに1日平均240万回もの集中的サイバー・ハッキングを行った。③「網路空間部隊」は特に24年1月の台湾総統選挙以来、ハッキング活動を活発化させており、専従隊員は5万人から10万人、予算規模も数億ドルに膨れ上がっている。④中国共産党のサイバー作戦の主な狙いは、台湾侵攻の際に、台湾政府がインフラ維持のための情報・通信システムの保全について十分な態勢がとれているかどうかについて台湾人民の間に疑念と混乱をかきたてることにある。
戦略兵器と位置付けるサイバー攻撃
「グレーゾン」での中国側の攻勢のうち、近年とくに注目され始めたのが、「サイバー空間」とされ、米国軍事専門家の間でも、中国共産党ドクトリンが、台湾占領に向け「予備行動」「本格軍事作戦」「作戦終了後」におけるサイバー攻撃の展開拡大を求めているとの指摘も出ている。
