保守系シンクタンク「アメリカン・エンタープライズ・インステュート」(AEI)のクロン・キッチン上級研究員もこうした論者の一人だ。
同氏は、「サイバーによる台湾奪取(Taking Taiwan Through Cyber)」と題する論文の中で、以下のように指摘している:
・中国にとって「サイバー」は、電子、宇宙,心理戦争を含む「情報作戦」の概念上、より大きな位置を占めており、中国人民軍戦略家たちも、敵軍の作戦システムを機能不全に陥れ、戦争指揮システムを妨害するための戦略兵器と位置付けている
・人民解放軍は15年12月、陸海空部隊から独立した「戦略支援部隊」(SSF)を設立、中央軍事委員会指揮下に置いて以来、サイバー作戦、電子戦争、心理作戦を重視してきた。その最大の特徴は、平時と戦時の境界が曖昧な戦略を前提にしており、兵力本格投入以前の平時の段階から切れ目なく戦争状態に移行させる点にある
台湾も体制を強化
こうしたサイバー面での中国側の増大する脅威に対し、当然、台湾側も警戒態勢を一段と強化しつつある。
台湾では従来、「中国の脅威」に対する受け止め方は政府部局、企業間でばらつきがあり、対策もまとまりを欠いていたことが指摘されてきたが、最近になって、政府機関、産業界、学界などが一体となった横断的、“国家的”体制づくりがようやく軌道に乗り始めたと伝えられる。
その中で、とくに重視されつつあるのが、「ゼロトラスト(Zero Trust)」と呼ばれる戦略の徹底だ。「ゼロトラスト」とは、文字通り「何も誰も信頼しない」ことを前提とした新しいセキュリティ概念であり、従来型のセキュリティ対策と峻別される。
従来型の場合、国家や企業が持つ情報ネットワーク保全対策として、信頼できる「内側」と信頼できない「外側」に分け、その境界線上にファイアウォールを設置することで防御する。「境界防御型」とも呼ばれる。従って、「内側」は無防備となる。ところが近年、IT革命により情報ネットワーキングの複雑化、拡大、深化により内外での区別がつかなくなってきた。
そこで台湾情報当局は、中国側からのハッキング、ランサムウェア拡散対策のみならず、重要情報を取り扱う政府部内、インフラ企業内部などからの情報漏洩などに対する監視体制についても強化することになった。
米国の量子コンピューター技術専門誌「The Quantum Insider」によると、台湾当局はこの「ゼロトラスト」戦略の一環として、政府各部局、企業関係局の専門家たちとの会合を定期的に開催し、中国側の攻勢に備えることにしているという。
