また、たとえ全ての主要な大国がお互いの勢力圏を認め合ったとしても、パワーや利得を巡る競争はなくならず、他国の勢力圏にさまざまな方法で手を出す誘惑は存在する。大国の勢力圏内に位置する弱小国の中には、当該大国の支配的立場に反発し、それを軽減しようとするかもしれない。その場合、遠くの地域に位置するライバル国には介入の機会が訪れることとなる。
さらに言えば、たとえ中国、米国、ロシア、あるいはそれに加えて一、二ヵ国がお互いの勢力圏を認め合い、それを尊重することを約束したとしても、アフリカと中東は残されることとなる。従って、大国が富やパワーや影響力を巡って争う場所はふんだんに残ることとなる。いずれの大国も自分のために輸送路を確保するとともに、他の大国の輸送路へのアクセスを害そうとするであろうから、一つの地域での競争は他の地域に伝播するであろう。
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世界は勢力圏による棲み分けが起きるのか?
ウォルトは、リアリストの国際政治学者である。上記の論説におけるウォルトの所説については概ね違和感はないが、日本が勢力圏について真剣に考えるべきは、上記の論点よりも「どの程度、世界は勢力圏による棲み分けという国際関係モデルに近づいていくか」、「勢力圏による棲み分けが進むとすれば東アジアはどう扱われるか」、である。
勢力圏による棲み分けは、失地回復を念頭に現状変更を目指すロシアと中国にとっては、魅力的な国際関係モデルである。国際的に認められた国境を越えた近隣地域ないし施政を及ぼしていない近隣地域で失地回復の対象としたいところを勢力圏として承認してもらえば、そこでのフリーハンドを得ることができるからである。
それでは、米国にとって、とりわけ第二期トランプ政権にとってはどうか。確かに、同政権が勢力圏による棲み分けに傾斜して行きかねないと見られる要素もいくつかある。
第一に、『国家安全保障戦略』において「米国が世界秩序全体を支える時代は終わった」と明示的に述べた通り、米国はグローバルな責任遂行を放棄する姿勢を見せている。
第二に、第二期トランプ政権における国家戦略も外交姿勢も明確に西半球重視の立場を取っている。
第三に、トランプは大国の指導者との間で取引を成立させることを重視しており、習近平との会談を「G2会合」と呼んだりしている。
第四に、第一期トランプ政権でNSCの上級部長(欧州・ロシア担当)を務めていたフィオナ・ヒル氏は、同政権の際、プーチン大統領がトランプ大統領に対して、「ウクライナはロシアの勢力圏、ベネズエラは米国の勢力圏」との相互承認を提案し、トランプ大統領も否定的な反応を示していなかったとの趣旨を述べている。
