効率的に見えても
一極集中にはリスクがある
地方から都会に人を送り出しているのだから、本書でも紹介していたように、「都会便利税」「地方維持税」「地域存続税」を、地方の人が都市の人に求める気持ちも理解できる。
「都市部における潤沢な税金の使い方を見ていて、地方の人は疑問を感じているはずです。都会に住む地方出身者を大切に育ててこられたのは地方の税金による面も多く、地方の人の感情への配慮が必要です」
秋田県のような状況は、今後、日本の各地でも起きるはず。これに対して、どのような事前対策をとることが有効なのだろうか。
「『地方は楽』『住み心地が良い』と感じるような場所にできるかどうか次第だと思います。私の実感では、気候やクマなどの不安要素はあっても、そういうリスクを避けるように努力をすれば、生活自体は総じて通勤時間も短く、家賃も安めで大都市より楽だと感じます。東京など都市部では家賃の値上がりが進む中、『安く住める』『楽に住める』という実情を地方から発信することが、人が集まる結果を左右すると思います」
人口減少を前提、所与として考えるなど、「スマートシュリンク」といった言葉も、よく聞かれるようになった。必要な議論だとは思うが、言うは易しで、やはりシュリンクに抵抗感があるようにも思える。
「すぐにそれを実現することはなかなか容易ではないでしょう。地方にはそれぞれの土地に長く住む人がおり、こうした人たちの心情への配慮が必要になります。人口減少の傾向からすれば考えられる流れかもしれませんが、住民には丁寧な説明や同意が求められます。
ただ、人が多い場所に集めればいいといっても、日本には災害のリスクもあります。土地によってとれる農林水産物も違います。一極集中は一見効率的に思えても、有事には脆弱さを露呈するでしょう。こうしたリスクを防ぎつつ、徐々に、時間をかけて進めていく形になるのではないでしょうか」
都会に住んでいる人もそこの地方の現実を他人事ではなく、もっと自分事として知るべきだろう。
「まさしく、その姿勢こそが大事だと思います。東京にいたら日々便利にものや娯楽を享受できるので、そういうことが見えづらいし、見る気もしないのかもしれないですけど、やはり日本って広くて、いろんな土地にいろんな人が住んでいるので、そうした理解がもう少しあってもいいのかなと思いますね」
工藤さんは、近年のジャーナリズムの変化も実感している。
「東京発、中央省庁発の情報ばかりになっていると、情報量に偏りが出て、地方の現場で何が起こっているのか、現実が分かりづらくなります。東京で政策や数字・データが出たら、それが地方の現場でどういう影響を及ぼすのか、その両方の情報・報道が大事だと思います。日本には多様な考えや多様な人々、多様な地方が存在することをしっかりと伝えていくことが必要です」
また、工藤さんはこう話す。
「価値観をどこに置くのかも大事です。身近に流れてくる情報をそのままうのみにせず、能動的に情報を集めて自分がどこで満足するのか、何をすることで満たされるのか、つまり『自らの心の声とじっくり向き合う』。それを理解することで、自ずと住む場所は決まってくるのではないでしょうか」
工藤 哲
岩波書店
2420円(税込)
人口減少が進む中で何か起こるのか? 本書では現場での実態と共に、増え続けるツキノワグマ被害や、秋田の食文化、将来に向けた取り組みなど、多角的に報告する。
