「一期一会」のプログラム
中でも、羽生さん自身が「サプライズを込めて」と振り返ったのが、開演から3曲目の「Otoñal(秋によせて)」だった。
平昌五輪で2連覇を果たした翌シーズンの2018~19年から2季にわたって演じたショートプログラム(SP)の使用曲は、23年2月の「GIFT」で音楽こそ流れたものの、演技そのものは披露していなかった。
初めてライブで目にする観客も多かったかもしれないが、競技者時代を知るメディアやファンにとっては、実戦さながらの幕開けと、羽生さんの真剣な表情、研ぎ澄まされた集中力が、プロの舞台とはまた違った魅力を思い起こさせることとなったはずだ。プログラムの中では、回転軸が細く、スピードと高さのあるトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)などを華麗に跳んだ。
羽生さんは演じてきたプログラムと「一期一会」の覚悟で向き合ってきた。
たとえ演技構成は同じであったとしても、正確無比な高い技術が同じ軌道でジャンプを跳び、同じ場所でステップを刻み、スピンで魅了したとしても、客観的な評価が同じであったとしても、どのプログラムも決して全く同じ状況を生み出すことはない。会場が醸し出す雰囲気や湧き上がる歓声、称賛の拍手も含めたすべてが同じプログラムは存在しない。だからこそ、どのプログラムも「本当に、そこに生きているものだなぁ、と僕は思うんですよね」と語り、大切にしてきたのだ。
開演前に知らされていなかった第2部
「ライブ」と「リアル(現実)」が交錯した現在進行形で演じるからこそ、この日は「リアライブ」というタイトルで氷上に立った。
第1部の最後は不思議な光景だった。黄金色の衣装に身を包み、伝説のプログラム「SEIMEI」で締めくくると、リンクを出るときには「ありがとうございましたー!」と絶叫した。
なぜ、羽生さんはショーを最高潮に盛り上げる「SEIMEI」を第1部に盛り込み、ショーの最後に感謝を伝えるいつものセリフをこの時点で絶叫したのか。これこそが、第2部で会場を驚愕させる「布石」だった。
