データの活用による効率化の必要性を、小倉さんもこう語る。
「修繕ヤードには、船内で発生した不具合や修繕内容など、膨大なデータが主に紙媒体に蓄積されています。そのため、修繕記録を探して読まなければ、同じメンテナンスミスやオペレーションミスが起きやすいという非効率な状況です。
これまで紙で蓄積してきたデータを全て統合し、作業の際にそのデータをAIなどの活用によって簡単に取り出せるようにすることで、大幅に効率化できるのではないかと考えています」
どの作業をどのように効率化すればベストなのかを検討し、実践に移せたのは、長年にわたり現場を熟知してきた人材と、職人たちが地道に蓄積してきたデータという財産があったからだ。現場への深い理解があるからこそ、本当に効率化できるポイントが見えてくる。AIはあくまでもツールの一つに過ぎないのだ。
昨今、中国や韓国の成功に倣って、日本でもロボティクスなどの必要性も叫ばれるようになった。だが、久野さんは手放しには喜べない理由があると言う。
「ある現場で、『設備の能力不足だ』といって、設備投資をしようとしていました。でも、よく見ると実際には中間在庫を山ほど抱えていた。原因は設備の能力不足ではなく生産管理が問題でした。自動車業界でもよく言われるように、その課題は『マシン・ネック』なのか『マン・ネック』なのか。マン・ネックの課題に対してマシンの投資をしても意味がないどころが、かえって生産性を落とすことにつながりかねません。
こうしたことは、日本全国の造船所で起きているかもしれません。国には、日本全体を一つの造船工場だと捉えて業界全体を俯瞰して、的確に現状把握し、改善の道筋を丁寧に検討することが求められていると思います。そして、5年、10年の時間軸で造船業界を再構築していってほしいですね」
職人の技能が主役の時代へ
重要性増す〝水色〟とは?
さらに久野さんはこう断言する。
「職人の『技能』こそが主役になるという信念を持ち、何よりも現場を大切にすることが重要です。我々の仕事は〝ブルーカラー〟と呼ばれることもありますが、これからの時代、身体を使って『技能』を磨きたいという人の存在感や希少性が増していくはずです。人が単に体を動かすだけの『労働集約型』ではなく、『知的技術技能集約型』の組織を目指しています。
日本のモノづくりの強さは、ホワイトカラーとブルーカラーの間にある『技術』と『技能』、つまり双方が交じり合う〝水色〟の部分だと言っても過言ではありません。現場には、技能と技術を融合させたインテリジェンシーの高い職人たちがたくさんいる。それは文系、理系、高卒、大卒の枠組みとは関係ありません。こうした人材を時間をかけて、育む土壌をつくっていく。それが長期的に見た時の日本らしい勝ち筋の一つであると考えています。そして、日常的に多くの案件をこなすことで、技術力やノウハウの蓄積がされやすい内航船業界も合わせて充実させることは、外航船を含めた日本の造船業全体の底上げを図ることにつながるのです」
