2026年5月21日(木)

脱「ゼロリスク信仰」へのススメ

2026年5月21日

世界各国のOTC政策

 フランス、ドイツ、スイスではセルフメディケーションの意識が高く、軽微な疾患に対する薬剤は自己負担になっている。ただし、ドイツでは、12歳以下の子どもや、医師が医療上の必要性を認めた重篤な疾患を持つ患者に対しては例外規定が設けられている。フランスでは、薬剤の効能に応じて給付率が段階的に設定され、軽微な症状に対する薬剤の自己負担率は高いが、低所得層に対しては自己負担を免除する仕組みが整備されている。

 米国の医療費は日本よりずっと高額であり、医師の診断により処方箋を得ることはかなり高いハードルである。そこで処方薬からOTCへの転換が積極的に行われたのだが、その影響に関する多くの研究が存在する。

 例えば、抗ヒスタミン薬や鎮痛薬のOTC化に伴い、利用量は平均30%以上増加した。これまで処方薬を摂取していなかった軽症患者が、OTCを使用できるようになった「アクセスの改善」である。一方で、自己判断でOTCを摂取することの副作用リスクや誤用の懸念も指摘されている。このことは、OTC化が「適切な診断」の代わりになるためには、薬剤師によるカウンセリングや、患者自身のヘルスリテラシーが極めて重要であることを物語っている。

 日本の改正案では、配慮が必要な小児、低所得者、特定の慢性疾患・難病患者、および入院患者は「特別の料金」の対象外となる。この除外規定により、医師会が懸念する「経済的困窮による重大な疾病の見逃し」というリスクは相当程度緩和されていると評価できる。

 日本のヘルスリテラシーは国際的に見て低い位置にあるという指摘がある。自己診断の誤りを防ぐためには、制度改正と並行して、ヘルスリテラシーの教育、健康相談の窓口や、薬剤師による健康相談の充実が不可欠である。

痛みを伴う議論を

 「市販薬で胃痛を紛らわせているうちに、胃がんが進行する」という懸念は、理論的には正しい。しかし、軽微な自己負担増が即座に健康状態の悪化を招くというデータはなく、むしろ受診の適正化というプラスの効果が期待される。また「低所得者」「慢性疾患患者」「医師が必要と認めた場合」の除外規定は、リスクが高い層を保護する設計となっている。従って、「OTC類似薬の負担増のリスクはほとんどない」というのが客観的な評価である。

 日本の皆保険制度を守るためには、有限な資源をどこに配分すべきかという、痛みを伴う議論を避けて通ることはできない。OTC類似薬の給付見直しは、そのための必要悪としての側面を持ちつつも、適切な緩和策を講じることで、国民の健康維持と財政健全化を両立し得る道筋であると結論づけられる。

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