2026年6月6日(土)

オトナの教養 週末の一冊

2026年6月6日

恐ろしいのにおめでたい

 そして、赤い舌を出した「中国の死神」こと無常である。無常はギャンブルでの大儲けなど、不真面目な願いをかなえる不埒な神で、本来はやくざ者が崇拝していたのだが、今では多くの一般大衆が無常を信仰しているという。

―― 『中国TikTok民俗学』では、中国北方の山東省から中国南方の福建省、さらには東南アジアのタイやマレーシアまで、各地の無常信仰が報告されていますね。

「無常は死神という怖ろしい存在のはずなのに、なぜか金運をはじめ幸福をもたらす神として人々に慕われている。僕が珍神の中で一番関心があるのがこの無常です。中国人のいるところに無常ありと言ってもいいほど、その信仰が広範囲に分布しているという点もこれを重視する理由の一つです」

 大谷さんは、漢族の宗教の基層がシャーマニズムと記す。確かに、『中国TikTok民俗学』で報告された神々の多くもシャーマンに憑依し、相談に来る人々をそれぞれの現世利益に導く。

「災いを除いて福を得たい、というのは中国庶民の最大の願い。だから全国にいるシャーマンが、日常の相談窓口なんですね。そのためには、死神だろうが海外の神だろうがセクシーな神だろうが、かまわない。説教はいらないから実際に役に立つ神様がほしい」

 健康、仕事、商売、家庭、学業、恋愛……。本書の珍神探訪ルポを読むと、現代中国の普通の人々が、日々いかに熱心に現世利益を求めて身近な崇拝対象を探しているかがわかる。

―― ということは、中国という国ではそれだけ生存競争が激しい?

「中国は大国ですが、国が1人1人を守ってくれるという安心感は日本ほどないような気がします。金を稼いで健康を保ち、何とか生き延びなければならない。その点は、とてもシビアだと思いますね」

 中国の庶民の生の感情が、珍神を通して浮かび上がってくる1冊なのである。

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