安達は、PCIJについて、「永遠の生命があるものと見なければならぬ国際的制度として十年の歳月は余りに短期間である」と考えていた。33年12月の書簡で安達は、「不戦条約の精神を見事に体現している常設国際司法裁判所は、あらゆる騒擾に耐えうるものであると思っています」という信念を語っている。
安達は、平和と協調が実現される未来への希望を捨てることはなかったといっていいだろう。
日本が掲げる「法の支配」
国益と国際協調という命題
第二次世界大戦終結から80年、国際秩序は根本から脅かされている。
大戦を経て創設された国際連合の常任理事国として、国際平和により大きな責任を負っているはずの国々が、公然とルール破りの軍事行動に及んでいる。2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻は今も続き、今年に入り、米国までもが公然と現状打破的な行動を取り始めた。
年初のベネズエラでの軍事作戦。2月末にイスラエルとともに行ったイランへの先制攻撃。ベネズエラで米国は電撃的な軍事作戦を1日で終え、同国の政治体制に強い影響力を保持するに至ったが、対照的に、イランは最高指導者ハメネイ師殺害の後も強固に旧政治体制を温存させ、抵抗を続けている。ベネズエラでの「成功体験」を再現できるという甘い考えに基づいて開始されたイラン戦争は、泥沼化しつつある。
もっとも国際法違反の軍事行動について問われた米国のトランプ大統領は「私に国際法は関係ない」「軍事行動に歯止めをかけられるのは私の倫理観だけだ」と言ってのけた。
弱肉強食のジャングルのような世界への入り口も開かれる中、なんとか人類が踏みとどまり、「法の支配」を回復していく上で、PCIJの後身である国際司法裁判所(ICJ)と国際刑事裁判所(ICC)の重要性はますます増している。
しかもICJの所長は岩澤雄司氏、ICCの所長は赤根智子氏、ともに日本人だ。両所長のもとでICJとICCは、安達が生きた激動の時代に匹敵するような大きな挑戦に立ち向かっている。
かつて世界の大きな変化を見誤り、国際協調に背を向けた日本は、このような逆境においてこそ、国際協調主義と「法の支配」の理想を高く掲げ続けるべきであろう。安達の思想と実践が教えるように、国際協調の追求は、国益を犠牲にした英雄的な行為を意味しない。安達は、時に国益と国際協調という二つの要請に引き裂かれつつも、あくまでこの二つの命題の両立を信じ、その実現を追求し続けた。その生涯にわたる国際協調への貢献は、今日の世界でまた新しい輝きを帯びている。
