転換期のアメリカを象徴するのが若者の世代、1990年代後半から2010年前後に生まれたZ世代である。三牧聖子さんの『Z世代のアメリカ』(NHK出版新書)は、そのZ世代が出現した意義と、今後のアメリカに及ぼす影響について考察した一書である。
2022年のギャラップ調査によると、「アメリカ人であることを非常に誇りに思う」と回答したのは、Z世代(以下、各種調査では投票権を持つ18~29歳)が他の世代と比べて突出して低く、約20%だった。
彼らは、リーマンショック後の長い不況と、コロナ禍でアメリカが100万人以上の死者を出した状況を見ながら育った世代である。
アメリカの「例外主義」の終わり
「弱いアメリカ」こそが真実
「三牧さんは彼らを、例外主義からの訣別を願った戦後初めての世代と捉えておられますね?」(足立)
例外主義とは、超大国のアメリカが世界の安定などに特別な使命感を持つ、とする考えだ。
2001年の同時多発テロ事件を契機に、アメリカはアフガニスタンやイラクでの「テロとの戦い」を開始した。戦費は8兆ドル(約880兆円)に達し、80カ国を巻き込み、7000人を超すアメリカ兵が死んだが、20年間の総死者数も90万人(半数以上が民間人〉を数えた。
「Z世代はアメリカを、海外に戦火を広げる例外主義の国ではなく、もっと国内に目を向ける普通の国になってほしいと考えています。これも世論調査で見ると明白です」(三牧)
アメリカ進歩センターの2019年の調査では、「中東・アフガニスタンでの戦争は時間、人命、税金の無駄遣いであり、自国の安全には何の役にも立たなかった」とする回答が、Z世代だと7割近くになった。
視線をアメリカ国内に転ずると、経済格差の拡大、教育費の高騰、さらに従来から続く人種差別や暴力、脆弱な社会保障……。Z世代には「弱いアメリカ」こそが真実なのだ。
BLMとパレスチナ問題
「2020年にミネソタ州で黒人のJ・フロイドが白人警官に首を押さえつけられ死亡しました。この様子を収めた動画が拡散することで高まったBLM(ブラック・ライヴズ・マター)運動の主要な担い手もZ世代だった?」(足立)
「BLM運動は昔からありましたが、フロイド事件で急拡大したんですね。それを中心的に担ったのがZ世代。Z世代は、現在イスラエルによって組織的に弾圧されているパレスチナ人への連帯を最も強く打ち出す世代でもあります。彼らは決して、昨年10月7日にガザ地区を拠点とするハマスがイ
中国とは現実的な妥協が必要
対中国の意識も、Z世代はアメリカの他の世代とは異なっている。
アメリカの最大の脅威は中国。成人の8割以上が中国に対して否定的な見方をしているとされるが、三牧さんによれば、Z世代は安全保障以外の分野では、是々非々とする。
「中国企業の運営するTikTokアプリに関し、個人情報が中国政府に漏れるということで6割近くのアメリカ人が禁止を唱えています。ところがZ世代では、TikTok禁止に反対する人が半数以上いますね?」(足立)
「TikTokのユーザーの3分の2がZ世代と言われています。TikTokはフロイド事件後のBLM運動推進の重要なツールとなりましたし、イスラエル・パレスチナ間の戦闘の実態を直接知って、お互いに議論をする場にもなりました。個人情報の流出なら、アメリカのメタ社のフェイスブックなどの方がよほど前例もありますからね」(三牧)
安全保障上の最大の脅威が中国であっても、軍事的に中国を完全に封じ込めることなどできない。であれば、現実的な妥協が必要だ。
「世界的な気候変動の抑制には、中国の協力が不可欠です。グローバルな貿易もそうです。協力できる分野は、警戒しつつも協力する他ありません。中国人留学生の入国制限などは、
社会正義を求め、議論し行動する主体となったZ世代は、アメリカ例外主義から離れて必然的に国際協調路線へと向かっている。