2026年6月2日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2026年6月2日

 一方で、アラブ・イスラム諸国の間にも意見の相違がある。特にサウジアラビアとUAEは、地域秩序の将来像や経済競争をめぐって立場が異なる。UAEは今回の戦争で最もイランに対して強硬な湾岸協力理事会(GCC)加盟国であり、戦後もイスラエルとの関係を一層強化する方針を明確にしている。外交筋の中には、UAEがこの新たな枠組みに参加するか疑問視する声もある。

 これに対し、サウジアラビアなどは、パキスタン主導の米・イラン仲介努力を支持している。さらに、サウジアラビアは、25年9月に相互防衛協定を締結したパキスタン、さらにトルコ、エジプトとともに、新たな地域連携を形成しつつある。

 他方、パキスタンのアシフ国防相は、カタールとトルコをサウジ・パキスタン防衛協定に加え、「域外勢力への依存を最小化する経済・防衛同盟」を構築する構想を提案した。この構想は、米国中心の安全保障体制から、より地域主導型の新たな中東秩序への移行を示唆するものであり、戦後中東の最も重要な外交イニシアティブの一つと位置づけられる。

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根本的に成立条件を欠く

 今回のイラン戦争における隠れた敗者は、GCC諸国であることは間違いない。これまで原油と天然ガスの収入、さらに、脱炭素化をにらんで太陽光発電、データーセンター投資等を積極的に進め、豊かな生活を享受してきたGCC諸国には死角がないと思われたが、イランからエネルギー関係のインフラ、国家の生存に必要不可欠な発電、淡水化施設を狙われることにより、その脆弱性をさらけ出した。

 そしてはっきりしたのは、長年、GCC諸国はイランの脅威に対抗して米国による安全保障の傘に依存して、米軍に基地を使用させていたが、米国とイランが直接対決するとこのことがかえって衝突に巻き込まれるということだ。しかも、トランプ政権は、あまり真剣にGCC諸国の安全保障に配慮してくれないというのが現実だ。米国が頼りにならないのならばイランとの関係を改善しなければならないのは自明の理だ。

 従ってサウジが今回の戦争後イランとヘルシンキ宣言型の不可侵条約を結ぶことを検討していることは十分考えられるが、この解説記事が指摘しているように、イランとともにアラブ諸国への脅威であるイスラエルを排除することが現実的かどうかという問題と、歴史的なサウジアラビアとUAEのライバル関係を考えると実現可能性は高くない。さらにイスラエルは対イラン戦略上、中東諸国、特に湾岸アラブ諸国を取り込みたい訳であり、これらの諸国が真反対にイランと不可侵条約を結ぶことは全力で阻止しようとするだろう。具体的にはネタニヤフ首相が開戦後にUAEを極秘訪問したように距離を近づけているUAEを利用して妨害するだろう。


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