地域経済への影響
映画や音楽といった文化活動の大都市への集中が進んだということは、地方の中小都市ではこうした文化へのアクセスが悪くなったことを意味する。そのため、このような文化の一部の地域への集積は、直接的効果として、アクセスの悪くなった地域に住む映画・音楽ファンの生活の質を低下させる。では、間接的には地域にどのような影響を及ぼすであろうか。
カナダのトロント大学のフロリダ教授は、クリエイティブ都市論に基づき、科学者、技術者、芸術家、デザイナーなど、新しい価値やアイデアを生み出す人々が都市に集まることの重要性を説いた。この考えから多くの研究が行われた。
例えば、スペインのバレンシア大学のボイス・ドメネク教授らは、出版、メディア、ソフト開発、研究開発、広告、デザイン、アートなど、文化に関係しそうな産業を一まとめにして「創造的な産業」と呼び、その産業が地域の生産性に及ぼす効果を実証的に検証した。ヨーロッパ24カ国の250地域を対象とし、08年のデータを用いて、他の要素を一定とした時に、この産業の就業者割合の変化が地域の就業者一人当たり総生産をどう変化させたかを考察した。
その結果、地域におけるこの産業の就業者割合が2倍になると、就業者一人当たり総生産が6%上昇した。創造的な産業で働く人が増えると、経済全体が影響を受ける可能性があることを示唆している。
似たような結果は他の国についての研究でも得られている。それを踏まえると、先ほど述べたような地方での文化施設の空白地帯の広がりは、地方での経済活動を停滞させる一因になることも考えられる。
もちろん、この研究では、注目する産業としてソフト開発や広告といった幅広い業種をまとめたものを扱っており、そのために、得られた結果がいわゆる文化の効果ではないものの影響も多々拾っている可能性がある。さらに、こうした生産性への効果は直接的に作用するのか間接的に作用するのかは定かではない。つまり、文化的活動が活発になるとその他の業種の生産性が直接影響を受けるのか、それとも何らかの間接的な影響を受けるのかははっきりわからない。
そこで、スイスのジュネーブ大学のボーアラム教授は、05年から11年のアメリカの大都市圏のデータを用いて、文化に関わる産業の集中と地域の生産性の関係を詳細に検証した。その結果、非常に単純な想定の下では、確かに文化の集中が地域の生産性を引き上げる結果が得られたものの、地域での平均的な教育水準など、生産性に影響しそうな要因を加味していくと、文化活動の生産性への影響が大きく減衰することがわかった。そのため、文化が生産性を引き上げる直接的な効果はさほど強くないとも見られている。
