続いて、イスラエル・イラン間で攻撃の応酬が繰り広げられたのは24年10月である。10月1日、イランは「真の約束2」作戦を実行し、ハマスのイスマイル・ハニヤ政治局長、ヒズボラのハッサン・ナスララ書記長、および、革命防衛隊のアッバース・ニールフォルシャーン准将が殺害された報復として、弾道ミサイル数十~数百発をイスラエル領内に発射した。これを受けて、イスラエルは10月26日、イラン本土に対して「悔恨の日々」作戦を実行し、イランの軍事目標に対して精密攻撃で報復、弾道ミサイルの固定燃料混合施設等に打撃を与えた。
そして、多くの読者の記憶に新しいと思われる、25年6月13~24日の「12日間戦争」に至る。同戦争では、イスラエルがテヘランの複数箇所および点在する核・軍事施設を大規模に攻撃し打撃を与えた。モハンマド・バーゲリー統合参謀本部長、ホセイン・サラミ革命防衛隊総司令官らも、この攻撃で殺害された。イランも13日、「真の約束3」作戦を開始し、両国は交戦状態に突入した。
また、6月21日、米軍は、イランのフォルドゥ、ナタンズ、エスファハーンの核施設3カ所をバンカーバスター(地中貫通爆弾)で攻撃を加えたと発表し途中参戦した。その後、米国のトランプ大統領による停戦合意発表によって幕引きが図られた。
以上のように、今次の戦争に至る過程を追ってみると、初めに先制攻撃を仕掛けたのはイスラエルであり、米国は途中参戦したことがわかる。イラン軍部の指揮系統を標的として要人を次々に排除する軍事戦略は、イスラエルがヒズボラ等の「抵抗の枢軸」諸派に対して講じた戦略と非常によく似ている。
イスラエルは、「抵抗の枢軸」の領袖がイラン・イスラーム共和国体制だと考えているのだろう。米国・イラン協議の進展を見極める上では、イスラエルの意向がどこにあるのかを分析し対応することが非常に重要である。
米国・イラン協議の主要な争点
それでは、現在、米国とイランは何を主要な争点として交渉を進めているのだろうか。トランプ大統領が4月7日のSNS投稿で「イランから10項目から成るプロポーザルを受け取った」と述べている通り、同文書が一つの指標となるだろう。各種報道によれば、この10項目とは以下である。
●戦争の恒久的な終結。一時的な停戦は受け入れない。
●イランが再び攻撃されないことの保証。
●イスラエルによるレバノンのヒズボラに対する攻撃の終結。
●イランに対してだけではなく、地域の全ての戦闘の停止。
●米国および国際社会による対イラン制裁全ての完全解除。
●引き換えに、イランはホルムズ海峡の封鎖を解除し再開。
●ホルムズ海峡を通じた安全な航行の手順。
●イランは船舶当たり200万ドルの通航料を徴収する。
●通航料をオマーンと分割する。
●米国・イスラエルによって破壊されたインフラの復旧。
(各種報道に基づき筆者作成)
その後、5月18日付「タスニーム通信」(革命防衛隊に近い通信社)によれば、14項目から成る覚書ドラフトを仲介役のパキスタンに提出したとしており、現状、米国とイランの間でやりとりがなされている文書は14項目であると推測される。
これらの主要なポイントについて、5月17日付「ファールス通信」(保守強硬派系)は、①全ての戦線(レバノンを含む)での戦闘終結、②経済制裁の解除、③イラン在外凍結資産の解除、④戦争で引き起こされた損害の賠償、⑤ホルムズ海峡におけるイランの主権の承認の5点を、イラン側は交渉の前提条件として掲げている旨伝えた。上記の10項目と見比べてみても、含まれる内容は大体同じ内容であることがわかる。
これらを見渡して気付くのは、イランがこれまで交渉の「てこ」としてきた、①核開発、弾道ミサイル・ドローン開発、③「抵抗の枢軸」(代理勢力)育成の3点が含まれていないことである。これに関して、5月28日付「アクシオス」(米国のニュース・サイト)は、覚書締結後、30日以内にイランは全ての機雷を撤去し、それによってホルムズ海峡の通航は制限されなくなり、一時停戦が延長される60日以内に米国・イランが核問題(具体的には高濃縮ウランの取扱い)について協議すると伝えた。総じて、覚書は、段階的アプローチに基づく建付けだと思われる。
